MAGAZINE マガジン

【石田宏樹のインターネットが拓くビジネスイノベーション1】

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

時間に作用してこそイノベーション

(企業家倶楽部2011年10月号掲載)

 今月号から、「石田宏樹のインターネットが拓くビジネスイノベーション」を連載開始します。本連載では、インターネットの進化が今後世界に何をもたらすのか、インターネットが切り拓く未来社会について、フリービットの石田社長にお伺いします。初回は、イノベーションの本質とは何かについて、「時間」という切り口から語っていただきました。

イノベーションを「時間」という概念で捉える

 イノベーションによる生産物は、人間に最も平等に与えられている「時間」という概念に作用した時、最も効果的であったと言えるでしょう。そして、イノベーションをもたらす商品は、「時間節約型」と「時間消費型」の二つに分けられます。

 現在の問題は、ITビジネスにおいて「時間消費型」の商品が多いということです。産業の規模を拡大するには、イノベーションがもう一度「時間節約型」に向かわなければなりません。劇的に時間が節約され、その時間がより良い消費に向かった時、経済は大きくなっていくのです。

時間消費と時間節約の両面を持つソーシャルゲーム

 時間消費型の商品が多いITビジネスの中でも特に面白い例は、ソーシャルゲーム市場です。ソーシャルゲームは、ゲームという側面だけ見ると「時間消費型」の商品です。ソーシャルゲーム自体は無料のことが多いでしょう。

 では、彼らがゲームのどこにお金を払っているかと言うと、アイテム購入のための課金です。アイテムの具体例を挙げますと、釣りのゲームなら「良く釣れる釣竿」、農場を経営するゲームなら「作物のよく育つ肥料」といったところでしょうか。これらのアイテムの本質は、時間を節約できるところにあります。すなわち、ソーシャルゲームの課金の多くは、時間節約型商品に他ならないのです。

 ちまたでは、「ソーシャルゲームは既存のゲーム産業の売り上げを越えられない」と言われています。ソーシャルゲームは、従来のゲームを無料にした上、収益を広告に頼っているので、既存のゲーム以上の利益は得られないという論理です。しかし、逆転現象はいつ起こってもおかしくありません。

 なぜ既存の話題作が売れなくなったかと言うと、時間を食うためです。一般的に大作と呼ばれるゲームよりもカジュアルゲームがヒットしたという事実は、「ゲームをして時間を潰したい」という時間消費のニーズと同時に、「こんなに時間は掛けられない」という時間節約のニーズがあったことを如実に表しています。

 結局、人間は時間が大切なので、ゲームをしつつも実は早くクリアしたいのです。多くの人がゲームと一緒に攻略本を購入するのも、ソーシャルゲームにおいてアイテムに課金するのと同じ原理、すなわち時間節約と言えます。

 時間消費と時間節約の視点から考えると、ソーシャルゲームは時間節約型商品に対してお金を払う好例でしょう。ソーシャルゲームの面白いところは、表面的には時間を消費しながら、お金は時間節約のために使っているという点なのです。

人間の行為をデザインし直す

 時間消費と時間節約という観点から見た時に象徴的なもう一つの事例は、旧松下電器を代表する二つのブランドです。家電のブランドである「National」は、時間節約型商品である洗濯機や冷蔵庫を作ったことで主婦の時間を大幅に削減しました。その空いた時間をより洗練されたものとするため、「Panasonic」の時間消費型商品が音楽や動画といったエンターテイメントを生み出していく役割を担っていたのです。一方、ソニーはウォークマンのような時間消費型の商品しか持っていませんでしたが、日立や松下電器が一生懸命家電を作って節約してくれた時間にうまく入っていきました。

 イノベーションを考えていく上で悪い例は、「ネットワーク家電」と呼ばれる白物家電にネットワークが付いたものです。例えば冷蔵庫は、昭和初期の食糧保存へのニーズを当時の技術で形にしたものに過ぎません。冷蔵庫に液晶画面を取り付けただけでは、従来からある二つのものの組み合わせ商品に止まります。これでは、時間消費にも時間節約にもなんら影響しておりませんから、イノベーションとは言えないのです。もう一度、食べ物を保存するという目的に立脚し、現代の技術でIT時代の人間の行為をデザインし直す必要があります。

 そのように考えると、21世紀における食糧を保存する行為は、配送サービスとインターネットに繋がる機器さえあれば可能でしょう。宅配便などほとんど固定費で町内を回る流通網は今でもあります。あとは時間を設定し、スマートフォンなどのネット端末を通して申し込めばいいのです。スマートフォンが一台あれば、冷蔵庫がいらない時代が来るかもしれません。

センサによる予防・予測を基調とする未来社会

 今後、コンピュータが活躍していく場を広げるのに鍵となるのがセンサです。センサは、感知したものを物理量や化学量に基づいてデジタル化します。センサが様々な場所で動くようになると、検索可能なものが増えていきます。

 センサネットワークで考えられる最も劇的な変化は、予測・予防が容易になることです。現在は、様々な事象に対して発生を起点として対処しています。それが予期できるようになるのです。

 今回の東日本大震災でも、発生した後に「想定外」などと言いながら一生懸命対策を講じました。しかし、極論を言いますと、100億個の地震センサさえあれば、地震の予測は可能です。現在は情報の粒度が荒いため、様々な事象を予測できませんが、情報粒度の精度を上げていけば、自然現象は測れます。

 ただし、そのためにはセンサの価格が下がる必要があります。鍵となるのはコストです。センサのコストだけでなく、膨大なデータを処理できるネットワークが整備されなければなりません。個々では少しのデータ量しか捌けませんが、数億個のものを繋ぐことができるタイニーバンド・マス・サービスという無線のサービスが出てきました。それを使えば、簡単にセンサの情報を捉えることができます。

 他にも、自動車のワイパーの動きをセンサで拾って発信すれば、天気予報ができるでしょうし、ABS(タイヤのロックを検地し、ブレーキを緩めて空走を抑える装置)が作動した際には、その地点がスリップしやすいといった情報が取れます。このように、センサを利用することで道路情報や災害情報は察知可能なのです。

 また、健康情報も視野に入れておく必要があります。医療も現在では発生を起点とした処置が一般的ですが、予防医学の存在は大きいはずです。

 現在は、医者をコンピュータに置き換えてもコストが変わりませんが、そこに歴然とした差が出てくると、予防医学が発達するでしょう。すると、平均寿命も延びていき、新たなビジネスチャンスが生まれてくるかもしれません。

 センサネットワークの普及で一番変わるのは保険業界でしょう。そもそも保険とは、あるかどうか分からない将来の恐怖に対してお金を積み立てているものです。その恐怖が可視化できるとなれば、状況は大きく変わってくるに違いありません。そうした分野に保険業界が自ら進出していくのか、はたまた他業界から激安の保険が登場するのか、未来に向かって社会はどんどん動いていきます。

 次回からも、インターネットが社会にどのようなイノベーションをもたらしていくのか、私なりに考察していきたいと思います。

PROFILE

石田宏樹(いしだ あつき) 1972年佐賀県生まれ。98 年3月慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中に、有限会社リセットを設立、取締役に就任。同年10月、三菱電機株式会社よりISP立ち上げの依頼を受け、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット( DTI)設立に参画、99年4月には同社最高戦略責任者に就任し「顧客満足度No.1プロバイダー」に育て上げた。2000年5月、株式会社フリービット・ドットコム(現フリービット株式会社)を設立。2007年10月、DTI を買収、2008 年9月に完全子会社化した。2007年3月20日東証マザーズ上場。第11回企業家賞受賞。

一覧を見る