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【石田宏樹のインターネットが拓くビジネスイノベーション2】

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

"Business innovation that the Internet opens"人手がメインのソーシャル時代にコンピュータは何ができるか

(企業家倶楽部2012年1・2月合併号掲載)

 

前回はコンピュータ技術の飛躍的な進化と、それに伴う個人の力の増大を取り上げました。今回は、それと並行して新たに登場してきたSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)に、焦点を絞っていきたいと思います。コンピュータは、人間同士の繋がりという領域に対してどのように貢献していけるのか。その展望を、SNSの特徴を分析しつつ、お話します。

ソーシャルネットワークはノードとリンクで構成される

 そもそも、ソーシャルネットワークとは何なのでしょうか。歴史的に、人間にとって人脈とは価値があるものです。現在ソーシャルネットワークと呼ばれているサービスは、対人関係を可視化し、人と人を繋がりやすくするためのツールとしてITを使ったものです。

 そして、そこにはネットワーク理論を適用できます。コンピュータも人も、なぜ繋がっていくのかと言えば、ネットワークが存在するからです。ITの世界において、ネットワークはコンピュータなど一つ一つの機器である「ノード」、その機器同士を繋ぐ線である「リンク」によって構成されています。ソーシャルネットワークをネットワーク理論で説明すると、人が「ノード」で、友達の数が「リンク」となります。「6degrees」という言葉で知られるように、6人を介せば全世界の人と繋がると言われています。

 ITの世界では、昔はコンピュータが数珠のように繋がっていましたが、コンピュータをインターネットに接続できるようにするプロバイダが生まれ、それが膨大な数のコンピュータとのリンクを持つようになりました。すると、プロバイダにさえ繋がってしまえば、そこを経由して簡単に様々なコンピュータへ繋がることが可能となったのです。そうしたプロバイダのような存在のことを「スーパーノード」と言います。人間関係においても、中心にハブとなる人がいるでしょう。その人間と繋がることにより、一気に対人関係が広がるのです。

他人との差異化の欲求がアバターへの人気を呼んだ

 人間の欲は、E(Existence)、R(Relation)、G(Growth)に分類されます。すなわち、生存に不可欠な欲求、人との繋がりや差異化の欲求、成長への欲求です。

 ソーシャルネットワークの普及を上記の欲求に基づいて分類すると、Rの部分が大きいでしょう。SNSでお馴染みとなったアバターの人気も、それで説明が付きます。ビル=ゲイツ氏のように、そもそも現実世界での存在が大きい人間は、アバターなど欲しがらないでしょう。自分の存在を、現実よりも高く評価してほしいという欲求がゆえに、人はアバターを作り、自分以上の装飾を施すのです。

 現実世界ではある商品が実利的な理由で必要だというケースがありますが、アバターの世界ではそのアイテムが無ければ困るという状況は無いでしょう。アバターのアイテムは希少性のみを付加価値とし、価値判断の一切が製作者に委ねられています。アバターを装飾することに価値を感じる層の中でも、比較的お金を払える人たちが高額のアイテムを購入するのです。

 実は、こうした欲求は今に始まったものではありません。ブランドのバッグや高級車を買う大多数の人は、機能性と値段の釣り合いより、所持することによって自分の存在を引き上げられるという価値を見出しているのです。アバターの装飾は、それと同じ現象がインターネット上で起こっているに過ぎません。

有益な情報が欲しければgiveの5乗を心がけよ

 現実世界とネットの世界を「リアルとバーチャル」と表現する傾向がありますが、ネット上でも実名である限り全てリアルだと思います。仮に、匿名になった時点で他の人格を演じる可能性が出てくるため、バーチャルと呼ばれているのではないでしょうか。

 ただ、私自身はSNSに匿名で登録することに意義を感じません。情報が欲しくても、匿名では良い情報が取れないからです。重要な情報を得たければ「giveの5乗」が不可欠。すなわち、相手にとって有益なことを5回して、初めて重要な情報を1つもらえると考えます。人と会う時も同様で、1回目は「良い人だ」という情報だけで会いますが、その際にもう一度会いたいと思わせられるかが肝心です。相手が自分の存在を有益だと思わなければ、わざわざ会う理由がありません。そこは両者両得の関係でなければならないのです。

 そもそも、フェイスブックはほとんどの人が実名で登録していますし、知り合いでなければ友達にはなりません。友達か否かの二択で、微妙な関係性を表せないという問題点もありますが、今は複雑にならないようシンプルに造っているだけで、今後様々な関係性を表わせるようになるかもしれません。

 また、関係性に限らず、「いいね!」ボタンの他に「別に」ボタンも欲しいところです。見たという事実は伝えたいですし、反応があると嬉しいものです。無関心ではないという意思表示がしやすいよう、「別に」や「見たよ」といったボタンがあると面白いと思います。コンピュータ性能の向上で的確なレコメンデーションが可能に

 コンピュータの性能が人間の能力を超え、様々な情報が機械的に検索できるようになりました。しかし、それでもコンピュータには届かない範囲が沢山あります。例えば、グーグルが探せるのは全世界に散在する書籍の8%に過ぎません。残る部分を探すには、人に聞くしかないのです。必然的に人間同士の繋がりが重要となります。

 そこに、ソーシャルネットワークが出現しました。誰かが打ち込んだ文章や撮った写真などで情報が形成され、それを目視で確認するという人手の時代が到来したのです。

 ただ、今は他人の言動が可視化できて皆が喜んでいますが、いずれ飽きたり、時間が無くなったりして見なくなるでしょう。「ミニブログ」の代表的存在であるツイッターでも、フォロー(そのユーザーの発言を見られるように登録すること)している人が増えてくると全てのつぶやきは読めません。数が増えると価値が下がるのは情報も同じで、多すぎると受容できなくなるのです。私も、最近ではツイッターでフォローする人を厳選するようになりました。良い記事なら必ず誰かがリツイート(他人の発言を転載すること)しますから、良質な情報感覚を持った人を選抜しています。

 今後は、洗練された情報しか届かないようにせねばなりません。それには、自分が興味のある事柄だけコンピュータが精査して伝えなければならないので、もう一段階上のコンピュータ技術が必要になります。

 どこまでの情報をソーシャルネットワークに与えるかが議論の対象となるでしょうが、位置情報、購買情報、スケジュール、メールの文面、検索キーワードなどといった多様な情報があれば、より正確なレコメンデーション(お薦め商品や情報の提示)が容易になります。そして、それに見合った内容の情報だけを選抜することも可能でしょう。

 情報の緻密な分析によって、ある人が欲しいものを予測するといった芸当はコンピュータの得意分野のはずですが、まだ技術が追いついていません。そこで、まずは自分の全く欲していない情報を篩にかけることから選抜が行われるでしょう。膨大なメールの中からスパムを認識する精度は高いので、様々な発言の中から明らかに興味の無い部分だけを振り落すことはできると思います。そして、コンピュータパワーの向上と共に、いずれ未来を予測するかのような情報が取れるようになるはずです。

PROFILE

石田宏樹(いしだ あつき) 1972年佐賀県生まれ。98 年3月慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中に、有限会社リセットを設立、取締役に就任。同年10月、三菱電機株式会社よりISP立ち上げの依頼を受け、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット( DTI)設立に参画、99年4月には同社最高戦略責任者に就任し「顧客満足度No.1プロバイダー」に育て上げた。2000年5月、株式会社フリービット・ドットコム(現フリービット株式会社)を設立。2007年10月、DTI を買収、2008 年9月に完全子会社化した。2007年3月20日東証マザーズ上場。第11回企業家賞受賞。

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