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【ベンチャー企業の法務心得 7】クレア法律事務所 代表弁護士 古田利雄

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

モチベーションの上がるベンチャービーグルとは

(企業家倶楽部2011年4月合併号掲載)

 ある企業と、優れたアイデアを持っているがそれを実行に移すだけの資金力のないクリエーターとがベンチャーを立ち上げようとするケースを考えてみましょう。

 クリエーターは、才能のあるプログラマー、アニメーター、デザイナー、或は料理人かもしれません。要するに、その人に特別な才能やブランドがあって、他の人では代替が難しい場合です。

 この事業を始めるにあたって、その事業体(ビークル)の法形式は何が適切でしょうか。

 その事業のリスクが限定されていれば、ビジネスそのものは企業が取引の主体となって、クリエーターとは業務委託契約を結ぶという方法も考えられます。そうすれば、ビークルの設立と運営の費用を節約することができます。

 しかし、このような新規事業は上手いくとは限らず、大幅な赤字(債務超過)になってしまうかもしれません。

 仮に、民法上の組合契約によって、この事業を営んでいたとすれば、ビークルに出資した構成員は、ビークルの債務に対して責任を負わなければなりません。それでは困りますから、株式会社、合同会社、或は有限責任事業組合(LLP)のような有限責任のビークルが好ましいということになります。

 株式会社は、不特定多数の人が、安心して出資を行えるようにするために、同等額の出資をした者は、同等の権利を有するという株主平等の原則がとられ、少数株主の保護などを目的とした機関設計や出資者の権利内容に対する詳細なルールが設けられています。

 しかしながら、クリエイティブなコンテンツを商材にするビジネスでは、必ずしも多額の出資を募る必要のあるものばかりではなく、また調達した資金の多寡でビジネスの成否が決まるものでもありません。むしろ、どのようなタレントを集めるかが大切になります。

 このようなビジネスにおいて、出資割合をベースにした会社の運営や収益の配分をしたのでは、才能はあるが資本を持たないクリエーターのモチベーションは上がらず、成功の確率も低下しかねません。

 株式会社をビークルにして、役員か従業員たるクリエーターに成果型の報酬を与えるとしても、税務上の問題などから自ずと限界があります。

 これに対して、合名会社・LLPでは、定款や有限責任事業組合契約によって出資者の権利内容を自由に設計することができるため、持分比率にかかわらず、たとえば、会社に優秀なアイデアを提供した人が得られた利益の大半を取得するように定款や組合契約を柔軟に作成することができます。

 それでは、合名会社とLLPとはどのような違いがあるでしょうか。

 合同会社は法人であるため、合同会社の利益に対していったん法人税が課税されます。

 これに対して、LLPは、法人格がないため団体に対する課税がなく、構成員(パススルー)課税となります。二重課税を回避でき、収益が上がるまでにビークルに生じる赤字は、構成員の課税所得の算定にあたって出資の限度で損金処理することができるのです。このような税務上の取扱を検討して、どちらにメリットがあるかを考えていくことになります。

注:以上は、原則的な考え方で、株式会社をビークルとした場合であっても、配当優先株や拒否権付種類株式を使うことによって、出資比率に比例しない収益や支配権の分配を実現することもできなくはありません。

Profile

古田利雄

ベンチャー企業の創出とその育成をメインテーマに、100社近い企業の法律顧問、上場会社の役員として業務を行う傍ら、ロースクールで会社法の講座を担当している。平成3年弁護士登録。東京弁護士会所属。

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