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【石田宏樹のインターネットが拓くビジネスイノベーション3】

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

インターネットの未来は三極化にあり

(企業家倶楽部2012年4月号掲載)

 

前回は、現在世界中に爆発的な広がりを見せているSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)が今後どのように変化し、社会に影響を与えていくのか、その展望をお話しました。今回はさらに視野を広げ、これからのインターネットが人間の生活にどのように浸透していくのか、その未来の姿を垣間見たいと思います。

インターネットは使用領域によって分化する

 今後10年で、インターネットはより人々の生活に浸透していきます。現在は、私たちが普段使っているブロードバンドネットワークのみですが、これからのインターネットは規模とスピードによって大きく三つの形態に分かれていくでしょう。

 まずはヒュージバンドサービス。これを使えば、容量の大きい情報を超高速でやり取りできるようになります。そしてブロードバンドパケットサービス。これは、現在私たちが使っている通信網が高速化したものです。いずれは高精細な映像がスマートフォンなどの媒体でも違和感無く見られるようになるでしょう。最後にタイニーバンドマスサービス。この典型例はM2M(Machine to Machine)のやり取りで、個々の通信量は多くありませんが、数十億個という膨大なセンサーを駆使して情報の処理を行います。

コンピュータの性能向上で金融が変わる

 ヒュージバンドサービスの超高速処理に価値が出る領域は、これからさらに登場してくることが予想されます。

 金融業界を例に挙げましょう。東京証券取引所では、人が行っている取引よりもコンピュータが自動的に売買を行うアルゴリズム取引の方が断然多い。東証のメインコンピュータの近くには取引のためのコンピュータが置かれていますが、二つを繋ぐケーブルは同じ長さに作られています。1秒で100回処理するコンピュータは、1秒で50回処理するコンピュータよりも時間が倍長いため、処理速度の速いコンピュータほど未来を知っていることになります。すると、性能の良いコンピュータを使用した場合、たった数メートルの差でも処理可能な情報量が変わってきますから、同じ東証内であっても、わずかなケーブルの距離の違いで取引額が変わってしまうのです。

 ここに、ヒュージバンドサービスの価値があります。超高速処理が可能なネットワークは、間違いなく金融の世界では強い。仮に日本がニューヨーク証券取引所の一番近いところに世界最速のコンピュータを置いてアルゴリズム取引を行えば、日本はゴールドマンサックスが知っている情報よりも未来の情報を得ていることになるかもしれません。

 すると、今度は主要な証券取引所の周囲の地価が上がるでしょう。アルゴリズム取引は一定の段階で規制されるかもしれませんが、今のところはコンピュータを証券取引所の近くに置けるほど有利になりますから、場所の値が高騰するのです。

画面の大きさこそモバイル端末の弱点

 モバイル端末は高機能化が望まれ、小さくなければなりませんが、画面は大きくあってほしい。それが、モバイル端末の抱える弱点です。これに応えられる新しい商品が出て来るかどうかが重要になってきます。

 そこで鍵となるのがプロジェクターです。私たちの開発した「Social Computer 01」は、ポケットに入る小ささ、本体にウィンドウズを搭載、タッチパネル操作、Wi-Fiに接続可能など、様々な強みがありますが、一番のポイントはプロジェクターとなっております。

 壁に映し出せば、画面を3.5インチから150インチまで自在に変えることができ、輝度も300ルーメンあるため、比較的明るい場所でも使用可能です。これが一台あれば会社でもプレゼンができますし、大画面で動画も見られます。また、スカイプのようなテレビ電話でも、相手の姿を大きく表示することができます。

 私たちが作りたかったのは単なるプロジェクターではなく、画面の大きさが変わるモバイル端末なのです。小さな画面でハイビジョンを見ることに違和感を覚える方もおりますが、そうした高精細な動画なども150インチで映せば良いという発想です。

 最近ではタブレットが出てきましたが、iPhoneとiPadの違いは画面の大きさだけです。本当はiPhoneの画面が伸縮したり、二つ折りになったりすればよく、今後画面の問題を解消していく過渡的な措置として、そうした商品が登場するかもしれません。

 通信機能を持った小さな端末から様々な場所に画像を投影できれば、インターネットの有り方も大きく変わってきます。将来的にブロードバンドパケットサービスがより浸透していくためには、画面の大きさという弱点を克服すべく端末自体が変化しなければなりません。

安心・安全に貢献するセンサーネットワーク

 人間が地球環境に影響を与えず生存していく方法は、テクノロジーが挑まなければならない課題です。地球に影響を与えないようなセンサーを大量に撒いて、そこから集まった情報を元に災害予告などを行うといったことは、タイニーバンドマスサービス無くしてはできません。科学は観察とデータ収集から始まります。現在の科学が様々な事柄を完璧に予知できないのは、サンプリングが荒いからです。それを、センサーを使うことで正確に読み取れるようになれば、様々な領域に変化をもたらすはずです。

 例えば、センサーネットワークは予防医療に繋がります。仮に、トイレにセンサーが付いていて、尿などの分析が自動的に行われ、異常を感知してくれれば、病気を早期で発見して対策が打てるかもしれません。災害や事故の防止、車の自動操縦などは、全て膨大な情報を分析することで可能となりますが、その膨大な情報を得るためにはセンサーネットワークが不可欠なのです。

 災害対策や医療の他に予防・予測が行える領域としては、食品業界があります。次世代のIPアドレス

 (ネットワークに接続される機器に割り振られるアドレス)であるIPv6は桁数が多いので、牛一頭ずつに部位まで含めアドレスを割り振ることが可能です。

 例えば、松坂市に割り振られたIPアドレスの一部を牛の業者に与えます。そして、その中のさらに一部を牛自体に、残る部分を牛の部位に割り振れば、IPアドレスは絶対世界唯一ですから、あらゆる流通経路が全て把握でき、在庫の管理まで行うことが可能です。生産者が追尾可能ですので、スーパーで売られている肉がどこから来たかも全て一瞬で分かります。事業主の不正防止にも繋がりますし、もし何らかの病原菌が発生しても、原因が特定できるので全頭処分を行う必要性が無くなります。

 このように、今後のM2M時代のセンサーネットワークは、人間の安全・安心に貢献していくでしょう。

PROFILE

石田宏樹(いしだ あつき) 1972年佐賀県生まれ。98 年3月慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中に、有限会社リセットを設立、取締役に就任。同年10月、三菱電機株式会社よりISP立ち上げの依頼を受け、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット( DTI)設立に参画、99年4月には同社最高戦略責任者に就任し「顧客満足度No.1プロバイダー」に育て上げた。2000年5月、株式会社フリービット・ドットコム(現フリービット株式会社)を設立。2007年10月、DTI を買収、2008 年9月に完全子会社化した。2007年3月20日東証マザーズ上場。第11回企業家賞受賞。

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