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【ベンチャー企業の法務心得 8】クレア法律事務所 代表弁護士 古田利雄

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

震災関連の法律Q&A

(企業家倶楽部2011年6月号掲載)

過去の震災で相談が多かった事例を取り上げます。

 Q:地震により建物が壊れて他人に損害を与えた場合、その建物の占有者(賃借人など)や所有者はどのような責任を負いますか。

 A:建物のような土地の工作物の占有者や所有者は、建物の設置又は保存において一般的に備えるべき安全性を備えていないことによって、他人に損害を与えたときは、これを賠償しなければなりません(民法717条1項)。
 
 この「一般的に備えるべき安全性」は建築基準法施行令等が求めている「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」強さになります。

 東日本大震災では、震度6から震度7という強い揺れが繰り返し記録されているので、倒壊したのでなければほとんどの場合で、建物の占有者や所有者は責任を負わないことになります。

 Q:地震によって建物が壊れ、屋根や壁が落下する可能性があるなど危険な状態にある場合、近隣の住民は何か請求ができますか。

 A:建物の占有者や所有者に対して、そのような危険を除去するように求めることができます。これらの者が相当な期間内に安全を確保する措置をとらない場合、建物の保存に瑕疵があることになり、それによって近隣が受けた損害について責任を負わなければなりません。経済的な余裕がなくても、地方自治体に相談したり、とりあえずネットをかけたり、「危険」であることを表示するなど、出来る限りのことをするべきです。

 Q:地震により建物が倒壊し、隣地に瓦礫等が残存している場合、建物の所有者はその瓦礫等を撤去しなければならないのでしょうか。

 A:隣地の所有者は瓦礫によって所有権に基づく円満な使用が侵害されているので、民法に基づいて、損害賠償請求とともに侵害の排除を請求することができます。侵害の排除請求は、損害賠償請求と異なり、侵害者の故意・過失は問われません。

 Q:地震により借地上の建物が倒壊(地震で発生した火事・津波により全焼・倒壊した場合を含みます)した場合、借地権はどうなりますか。

 A:土地そのものが存在する以上、建物が消滅したとしても借地権は消滅しません。この結論自体は旧借地法に基づき設定された借地権であっても同じです。

 仮に、契約書において、「借地上の建物が消滅した場合には借地権は消滅するものとする」といった特約条項がある場合であっても、一時使用目的の借地権でない限り、そのような特約は無効と解されます(借地借家法11条参照)。

 Q:計画停電の影響で労働者が休業しました。この場合、休業手当を支給しなければなりませんか。

 A:会社自体が計画停電の対象地域にあり、計画停電が実施された場合に、その停電時間における休業は、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、したがって会社は休業手当を支給する必要はありません。

 例えば、3時間の計画停電が予定されている場合に、全営業時間を休業とした場合には、計画停電の時間帯以外の時間帯における休業は、原則として、会社都合となり、休業手当の支払いが必要です。ただし、計画停電の時間帯だけを休業とすることが経営上著しく不適当な場合には、計画停電の時間帯以外の時間帯における休業も含めて全ての休業が、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、したがって会社は休業手当を支給する必要はありません。


Profile

クレア法律事務所代表弁護士 古田利雄

ベンチャー企業の創出とその育成をメインテーマに、100社近い企業の法律顧問、上場会社の役員として業務を行う傍ら、ロースクールで会社法の講座を担当している。平成3年弁護士登録。東京弁護士会所属。

Profile

古田利雄

ベンチャー企業の創出とその育成をメインテーマに、100社近い企業の法律顧問、上場会社の役員として業務を行う傍ら、ロースクールで会社法の講座を担当している。平成3年弁護士登録。東京弁護士会所属。

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