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【石田宏樹のインターネットが拓くビジネスイノベーション5】

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

インターネット時代の会社組織とは

(企業家倶楽部2012年8月号掲載)

前回は、加速するグローバル化に対してインターネットがどのように作用していくのかを分析しました。今回は、インターネットが会社という組織に何をもたらすのか、どのような組織が今後競争を勝ち抜いていけるのかについて論じたいと思います。刻々と変わり行く時代の中で何が残り、何が淘汰されていくのか、その本質に迫ります。

新しい時代に求められる組織とは

 組織というと、どうしても組織図が頭に浮かんでしまうものかもしれません。確かに、20世紀の会社組織を理解するには、組織図を把握することが一番でした。そこに、権限のありかと、コミュニケーションの流れを見ることができたからです。

 しかし、ICTによってコミュニケーション効率が劇的に向上している21世紀においては、組織とはもはや組織図のことではなく、そこに存在するソーシャル・ネットワークのことでしょう。

 ITと経営の専門家であり、世界的なコンサルティング企業のリサーチセンターをリードしてきたトーマス・ダベンポート教授は、優秀な人材は、重要な情報のほとんどをソーシャル・ネットワークから入手し、同時に情報提供者としての役割も担っているという実態を明らかにしています。

 人材という単位で考えると、特定の人材の価値は、その人材が持っているソーシャル・ネットワークの質で決まってしまうということです。これを会社というレベルにまで引き上げれば、特定の会社が生み出せる価値は、その会社で働く従業員が持っているソーシャル・ネットワークの質を総合したものになるでしょう。

 言うまでもありませんが、もはや、会社組織とは、社内に閉じているものではなく、広く社外にまで広がっているという認識が求められます。貴重な情報は、常に自分の外、自社の外にあると考える必要があるのです。

中継機はいらない

 かつてピーター・ドラッカーは、「あらゆる中継器が雑音を倍増しメッセージを半減させる。同じことが、人のマネジメントをせず事業上の意志決定もしないマネジメント階層についていえる」と述べました(『ネクスト・ソサエティー』)。

 ただなんとなく人をまとめているだけで、自ら情報提供者として1次情報を生み出すことのない中継器のような人材は、21世紀の組織にとっては、完全に害悪でしかありません。以前より、こうした仕事は「伝言ゲーム」と揶揄されてきたわけですが、そうした仕事しかできない人材の悪影響は、これからの時代にはさらに強調されるということです。

 社長と末端社員といった社内だけでなく、社長と顧客がインターネットを介して容易に「直結」する時代、いくつもの階層によって成り立ってきた20世紀の組織体制が機能するはずもないのです。

 もっとシンプルに考えれば、特定の人材の価値とは、その人材が発信できる情報の価値で決まるはずで、その人材がいかなる分野において専門性を持っているのかがカギになるという話です。ですから、専門性に乏しい人材の居場所は、今後はものすごい速度で失われていくことでしょう。

アップルの組織にヒントを見た

 長らく謎とされてきたアップルの組織が、近年では書籍や雑誌で見ることができるようになりました。その組織は、故スティーブ・ジョブズ氏を中心とした「円形」の組織になっています。これに対して「ジョブズ氏は、旧来の階層型組織の端と端をつないで、円形にしただけだ」という意見もありますが、私は全く別の理解のしかたをしています。

 私は、故スティーブ・ジョブズ氏が作り上げたのは、自分を中心としたソーシャル・ネットワーク型の組織であり、中継機の混在を許さない、有益な情報を発信できる人材のみで構成された、まったく新しい組織の概念ではないかと考えています。

 古い組織の考え方は、まず、組織に期待される「機能」があって、そうした「機能」を満たせる人材を探してくる、あるいは育成するという発想でした。これに対して、ジョブズ氏が作り上げた組織は、ある優れた専門性を持つ「人材」が起点になっていると考えます。ジョブズ氏が「こいつはすごい」と感じた「人材」がいたら、その「人材」が持っている「すごさ」をフルに活かすために、その「人材」が接続されるべき社内のソーシャル・ネットワークを考えたのではないかと、そんな風に思うのです。

 まだ発展途上ではありますが、私が統括するフリービットの組織も、機能中心主義ではなく、人材中心主義で組みなおしているところです。

その先の世界ポスト・ソーシャル

 これまで、人類が作り上げる技術、とくに移動手段と通信手段の発達は、距離の意味を破壊するように発展してきました。特に、インターネットの登場によって、距離的に離れた場所にいる人々の間のコミュニケーションコストが劇的に下がったことは疑えないでしょう。この向こう側に見えている世界は、「会社とはなにか」という問いを、私たちに突きつけています。

 会社とは、特定の理念(理想)を実現するために、人々が集まる「場」です。会社とは、そうした理念にそった価値を生み出す存在であり、他者から資本を預かる限り、成長し続けることを義務づけられています。ここまでは、これまでも、これからも変わらないし、変えてはならないと思います。

 ここで大切なポイントは、会社にとっては、理念の実現こそが目的であり、経営リソース(ヒト、モノ、カネ)は、すべて手段であるということです。今回のテーマであるヒトを中心とした組織も、理念を実現するための手段であり、その「あるべき姿」は、コミュニケーション技術の発達とともに、変化していきます。

 ソーシャル・ネットワークが仕事をするための組織(手段)として認知されたとき、会社の内側と外側を区別する必要性は、劇的に減るでしょう。いや、むしろ会社の外側をより積極的に活用するようになるのではないかと思います。

 たとえば経営をしていて、税務のことを知りたい場合、社内の経理部員に聞くよりも、税理士に聞いたほうが正確で、より優れたアドバイスを受けることができるでしょう。では、これまでは、どうして税理士ではなくて社内の経理部にアドバイスを求めざるを得なかったのかと考えると、その理由は距離(税理士が近くにいない)とコスト(税理士は高い)の問題だったと思います。

 しかし、インターネットは距離の意味を破壊しました。また、コストという意味でも、インターネットの力で、国外や物価の安い地方のサービスを受けられるようになってきています。

 ソーシャルが当たり前になったポスト・ソーシャルの世界では、社内に残るべき業務とは中継機ではない仕事だけであり、残れるのは情報の発信者として優れている人材だけになるのではないでしょうか。

 そんな新時代の会社組織においては、「どこの部署がやるべき仕事か」といった古い考え方ではなく、「誰がもっとも適任か」といったことを、社内外の枠を超えて、世界的な視野で考えるようになっているでしょう。個人レベル、会社レベルでの競争は激化しますが、社会全体としては、より最適化された状態が訪れると思います。そんな未来の社会で生き残れる人材を育てることが、私のミッションでもあります。

PROFILE

石田宏樹(いしだ あつき) 1972年佐賀県生まれ。98 年3月慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中に、有限会社リセットを設立、取締役に就任。同年10月、三菱電機株式会社よりISP立ち上げの依頼を受け、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット( DTI)設立に参画、99年4月には同社最高戦略責任者に就任し「顧客満足度No.1プロバイダー」に育て上げた。2000年5月、株式会社フリービット・ドットコム(現フリービット株式会社)を設立。2007年10月、DTI を買収、2008 年9月に完全子会社化した。2007年3月20日東証マザーズ上場。第11回企業家賞受賞。

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