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【石田宏樹のインターネットが拓くビジネスイノベーション7】

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

ITビジネスと継続課金

(企業家倶楽部2012年10月号掲載)

前回は、インターネットの登場によって組織がどのような変化を迫られていくのか、論じました。今回は、IT技術がもたらした「情報革命」の本質を捉えつつ、インターネットと親和性の高い継続課金型ビジネスモデルの必要性、そしてその弊害についてお話します。


継続課金という「養殖」ビジネス

 新鮮な魚を手に入れるには、自らが「釣り師」になって毎日海に出かけていく方法と、「魚の養殖場」を営む方法の二つがあります。

「釣り師」になるほうが、あまり手間もかかりませんし、すぐに始められて簡単でしょう。ですが、魚は毎日釣れるとは限らないし、海が荒れていたり、自分が病気にでもなれば、魚は一切手に入りません。これに対して、「魚の養殖場」を営むには、魚の習性を理解したり、養殖するための設備を整えたり大きな手間と投資資金がかかる代わりに、常に安定した量の魚を手に入れることができます。海が荒れていても、何らかの理由で自分が休んでも、魚はずっと手に入り続けることになります。

 ビジネスにも、これと同じような考え方が適用できます。商材を一度売って、その対価が一度だけ支払われるタイプのビジネスは、俗に「売りきりビジネス」と呼ばれ、このタイプは「釣り師」と同じビジネスモデルであると考えられます。これに対して、商材を一度売ると、その対価がサービス使用料や会費といった形で、ずっと継続して支払われるタイプのビジネスもあります。こちらのタイプは「継続課金ビジネス」と呼ばれ、「魚の養殖場」を営むのと同じビジネスモデルになります。

 売りきりビジネスは、始めるのが簡単というメリットがあります。しかし、営業マンの能力はもちろん、景気やその時の流行などにも左右されやすい、とても不安定なビジネスモデルです。悪い条件が重なれば、最悪は売上が立たないことにもなりかねません。また、売上を増やすためには営業マンの数(より正確には営業チャネルへの投資)を増やすしか手がありません。

 これに対して継続課金ビジネスは、景気や流行といった外部環境の変化の影響を受けにくく、とても安定したビジネスです。仮に営業活動がうまくいかないときであっても、毎月一定の売上が上がることになります。

 長期的にビジネスで勝っていくためには、どうしても継続的な投資が必要です。それを実現するためには、やはり継続課金ビジネスが有利になります。継続課金ビジネスを生み出すことは難しいのですが、インターネットをビジネスに活用すれば、これに成功する可能性が高まります。ちなみに、私が経営するフリービットは、全体の9割以上の売上が継続課金によるものとなっています。インターネットのインフラを整備していくためには、どうしても大きな投資を継続的に実行していくことが求められるからです。

ITビジネスと継続課金の親和性

 他のビジネスと比較したとき、ITビジネスの特徴として記憶しておくべき最も重要なものは「高い再利用性」と「高い再販売性」です。ソフトウェアをイメージしてもらうと解りやすいと思いますが、それを製造・販売する立場からすれば、ソフトウェアのコピーにはコストがかかりません(一度製造したものの再利用が容易)。また、ソフトウェアを販売するときにインターネットを使えば、顧客まで製品を届けるための輸送コストもかかりません(再販売として流通させることが容易)。

 これは、1980年の出版と同時に世界的に大きな影響を与えたといわれる、アルビン・トフラーによる『第3の波』(原題『The ThirdWave』)という本によって示されたことですが、ITが担っている「情報革命」は、狩猟採集が中心だった社会が農耕によって置き換えられた農業革命(第1の波)、産業革命(第2の波)に続く、人間の社会を大きく変える「第3の波」であると広く世界的に考えられています。

 農業革命は、それ以前の狩猟採集に比べ、食糧の再生産性(土地の再利用性)を劇的に高める革命でした(食糧のコピーコストを劇的に下げた)。産業革命は、蒸気機関による様々な生産活動の効率を高め(コピーコストを下げ)、輸送の効率化により、これまでにない再販売性も実現しました。そして「第3の波」である情報革命は「デジタル化」により、これまでの人類の歴史には見られない規模での「高い再利用性」と「高い再販売性」を実現したのです。さらにこの「第3の波」は、インターネットの発展とともに、極限まで高められてきていることは、周知の事実でしょう。

 極限にまで高められた「高い再利用性」と「高い再販売性」とは、先の例によって表現すれば、「魚の養殖場」の中で、魚が無制限に再生産され、かつ、そこで収穫された魚を市場に届けて売るまでの輸送コストもゼロに近いところにまで低減されているという状態です。インターネットビジネスが、継続課金と非常に高い親和性を示す背景には、こうした人類史上における革命的な進歩があるのです。

継続課金ビジネスの注意点

 これからの企業には、現代という時代が、このような歴史的な転換点にあることを認識しつつ経営することが求められるでしょう。その中で、インターネットの力を積極的に活用し、継続課金ビジネスを生み出していくことは、どこの企業にとっても大切なことになるはずです。特に、これからの日本社会は、少子高齢化と人口の減少によって市場規模がどんどん下がっていきます。そうした中で、経営を効率化し、海外市場に打って出るためにも、インターネットはきっと大きな力になるでしょう。

 さて、一口にITにおける継続課金ビジネスといっても、その内容は多様です。インターネットへの接続サービスはその代表的なものですが、他にも、フリービットのように、インターネットサービスを作るための技術を開発・特許化し、その技術を貸し出す対価として、毎月ライセンス収入を得ていくといった形の継続課金ビジネスもあります。

 こうした継続課金ビジネスを多く自社内に持つことは、経営上とても良いことなのですが、実は一つだけ、無視できない問題点もあります。それは、何も手を打たないと「釣り師」が育たないということです。

 継続課金ビジネスであっても、売上を伸ばすためには、新規顧客を獲得していくことが求められます。しかし、営業活動をしなくても同じ売上が上がり続けるという環境を生み出す継続課金ビジネスをしていると、営業活動に緊張感がなくなってしまうのです。理由は「魚の養殖場」においては、網で簡単に魚がすくえてしまうからです。

 こうした環境で毎日魚をすくっている人材には、毎日海で魚を捕っている「釣り師」のような、魚を捕ることに関する「カン」が育たないと言えば、伝わりやすいでしょうか。「魚は網で簡単にすくえるもの」という感覚を持ってしまうと、営業マンとしてはやはり失格なのです。特に、こうした緊張感を失ってしまった営業マンは、新規顧客の獲得が苦手になってしまいます。しかし新規顧客を獲得できないと、業容はなかなか拡大しないのです。

 人材育成は、全ての経営者にとって最重要課題の一つです。その中でも特に、継続課金ビジネスの推進においては、営業マンの育成が重要な鍵となることを忘れずに、是非とも、インターネットを活用した継続課金ビジネスの世界にチャレンジしてみてください。

PROFILE

石田宏樹(いしだ・あつき)

1972年佐賀県生まれ。98 年3月慶應義塾大学総合策学部卒。在学中に、有限会社リセットを設立、取締役に就任。同年10月、三菱電機株式会社よりISP立ち上げ依頼を受け、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット( DTI)設立に参画、99年4月には同社最高戦略責任者に就任し、顧客満足度No.1プロバイダー」に育て上げた。2000年5月、株式会社フリービット・ドットコム(現フリービット株式会社)を設。2007年10月、DTI を買収、2008 年9月に完全子会社化した。2007年3月20日東証マザーズ上場。第11回企業家賞受賞。

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