会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2012年12月号掲載)
【石田宏樹のインターネットが拓くビジネスイノベーション】
前回は、ビジネスにおいて未来情報をいかに掴んでいけばよいのか、インターネットという切り口から論じました。さて今回は、いまや私たちの生活に欠かせなくなったITを支えるエネルギーの問題について、私なりの見解を述べたいと思います。
成長を続ける「ITインフラ」を支える「エネルギーインフラ」への取り組み
先の震災でも明らかになったとおり、ITは社会の基盤インフラです。より広域・高速に、安全・安価なITが提供されることは、人類の発展に関わる問題なのです。インフラは、ミルフィーユのような「多層構造」をしています。ITインフラの場合も、その深いところはエネルギーインフラによって支えられています。その証拠に、ITインフラを支える重要なサーバーは電力が無ければ「ただの箱」と化してしまいます。
経済産業省が提唱したグリーンITイニシアティブ(2008年)によると、このITインフラを維持するために必要なエネルギー(消費電力量)は、06年から25年までに約5倍にまで急増するそうです。この間、日本の総発電量は大きく変化しないと仮定した場合、ITインフラが必要とする電力は、総発電量の5%から20%にまで上昇することになります。
このコスト増はITの使用料金に跳ね返ってきます。結果、個人の可処分所得と企業の収益が圧迫され、国全体の経済が悪化し、日本の国際競争力が低下してしまいます。
そんな中、フリービットも加盟しており、IT企業を中心とした852社(12年10月時点)が参加し、日本の競争力強化を目指す新経済連盟は、エネルギー改革委員会を設置して、こうした問題についての議論を開始しています。
私は、このエネルギー改革委員会の委員長を拝命しています。エネルギー改革委員会では、起業家が集まる新経済連盟ならではの提案を行なっていこうと意気込んでおりますのでご期待ください。
本稿では、そうした公の立場からは離れて、ITインフラとそれを支えるエネルギーインフラに関する私の個人的な見解をシェアさせていただきたいと思います。
インフラの役割とインフラの担い手について
産業は、いかなる分野においても、インフラとアプリケーションのレイヤに分かれています。新産業と言われるものは、たとえばIT業界におけるSNSのように、アプリケーションとして上位のレイヤに登場してくることがほとんどです。
ここで、2つのことを理解する必要があります。1つは、これからの時代、アプリケーションのレイヤで活躍するのは個人であって、企業ではない(かもしれない)ということです。個人が膨大なコンピューティングパワーを無料に近いコストで利用できる現在は、個人のアイディアは「即座に」「自己だけのリスクで」世の中に問うことが可能です。そうした個人のスピードに企業の意思決定スピードではついていくことはできません。その為、企業は、生き残りをかけてインフラのレイヤに進出していく必要があると考えています。
一方で、インフラのレイヤにおける最下層、たとえばエネルギー供給は、先の震災後の経験から、どんなに巨大な民間企業でも支えるのが難しいということを我々は学びました。しかしインフラがミルフィーユ構造である以上、もし最下層のインフラに問題が発生したら、IT業界だけを見ても、電力>IT>クラウド>検索/ソーシャルネットワーク>オンライン○○(ショッピング、バンキング、ゲームなど)と上位レイヤのインフラやアプリケーションが全て止まってしまいます。
こうしたインフラの議論には、サプライサイド(供給側)から考える方法と、デマンドサイド(需要側)から考える方法が有り、世の中ではこれらが混同して語られる機会が多いようです。しかし個人として、ITやベンチャー企業が「具体的に」貢献できるのは、デマンドサイドからのアプローチであると考えています。
「ピークカット」的思考によるリソースの最適割り当て
現在、電力の自由化が議論されていますが、この議論は新しいものではありません。実は通信の自由化が、この電力の自由化の議論に先だって世界的に行われてきました。世界的な通信自由化の流れを作ったのは、米国AT&T分割の同意判決(82年)と言われています。日本では、日本電信電話会社法の閣議決定(84年)以降、通信自由化が本格化します。
この際の新規参入企業のアプローチは「デマンドレスポンス」といわれる、まさにデマンドサイドからのアプローチでした。具体的には、ニーズ(最大トラフィック)を迅速に把握することで設備規模を最適に抑えるというアプローチです。
通信事業も電力事業と同じく、ピークトラフィック(最大需要)に合わせて、設備が準備されます。ただ、そのピークに達するのは一日の中で「ほんの僅かな時間」なのです。このほんの僅かな時間の為に大きな設備を準備する必要があります。
通信事業において我々ベンチャー企業は、このピーク時間に焦点をあて、課金を変えたり、速度を制限したりすることで、ユーザーニーズを満たしてきたわけです。この新市場のことを特に「ピークカット市場」といいます。
例えばフリービットでは、ドコモの回線を最適配分してお客様に提供するServersManSIM3Gというサービスを行なっています。これは、速度を通常利用において十分な100Kbpsに制限することで、スマートフォンが月額490円で使い放題になるというサービスです。電話機能はついていませんが、現在はLINEなどの無料通話が可能なために、大変重宝されています。スマートフォンを普通に使えば、月額約5000円にはなりますから、月額490円で使えるとなれば、これは通常の10分の1の料金です。これが、ピークカットの威力なのです。
電力でも同様です。私たちは必要エネルギーの「総量」という発想にとらわれがちです。もちろん「総量」を減らすことができれば素晴らしいのですが、生活レベルにも関わる問題であるため複雑です。総量を減らしてしまうと、電力設備の利用効率が落ちたり、資源の購買力が落ちたりする問題も考えられるので、慎重な議論が必要です。しかし通信事業と同じように「ピーク」に目を向けてみたらどうでしょう。
通常のエネルギー供給は消費のピークに合わせて最大容量が決定されています。たとえば日本では、エネルギー消費がピークとなる夏(冷房)と冬(暖房)に合わせて最大容量が定められています。そのため、エネルギー消費が相対的に少なくなる春と秋には、本来のエネルギー供給能力が発揮されることなく、いわば「死蔵」されているのです。
仮にもし、こうしたピークの値を“何らかの方法で”抑制することができれば、昨年の夏の節電実績ベースで、原子力発電所15基分程度のエネルギー消費を削減できる可能性があるのです。この省エネの付加価値を削減される電気料金として表現すれば、省エネ市場の規模はおよそ1500億円から3000億円程度と読んでいます。
この市場に、通信自由化のノウハウを持ったベンチャー企業が新規参入できるような環境整備ができれば、具体的にエネルギー問題に貢献できる新産業が生まれるでしょう。
私たちも、この分野にノウハウを提供して貢献していきたいと考えています。

PROFILE
石田宏樹(いしだ・あつき)
1972年佐賀県生まれ。98 年3月慶應義塾大学総合策学部卒。在学中に、有限会社リセットを設立、取締役に就任。同年10月、三菱電機株式会社よりISP立ち上げ依頼を受け、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット( DTI)設立に参画、99年4月には同社最高戦略責任者に就任し、顧客満足度No.1プロバイダー」に育て上げた。2000年5月、株式会社フリービット・ドットコム(現フリービット株式会社)を設。2007年10月、DTI を買収、2008 年9月に完全子会社化した。2007年3月20日東証マザーズ上場。第11回企業家賞受賞。