MAGAZINE マガジン

【石田宏樹のインターネットが拓くビジネスイノベーション10】

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

ベンチャー企業の「運命」としての体質改善

(企業家倶楽部2013年4月号掲載)

前回は、IT業界には欠かせない、最下層のインフラであるエネルギーの問題について、私なりの見解を述べました。今回は、経営、起業家、ベンチャー企業について改めて定義し直すと同時に、ベンチャー企業が採っていくべき戦略について述べたいと思います。

そもそも経営とは?

 これまで、なんどか触れてきましたが、経営とは、ヒト、モノ、カネという経営資源(リソース)の最適な配分を行うことです。ここで、最適な配分を行うために最も重要になるのが、未来に関する情報(未来情報)です。どの馬が勝つかという未来情報を知っていれば、どの馬にお金をかければよいか明らかになるように、今後の経営環境がどのようになっていくのかを知っていれば、リソースの配分にも間違えないというわけです。

 だからこそ経営者は、常に未来に関する情報を探しているのであり、少しでも正確な未来予測を手に入れようとしています。私自身も未来情報を得るために、ネットや書籍、論文、特許などから情報を得るだけでなく、wet情報を与えてくれる多くの先輩や有識者の方々に直接お会いしてご意見を伺うという機会をとても大切にしています。

起業家とは?

 私は、起業家とは、持ち合わせているリソースが極小の時に、そのリソース自体を「レバレッジ」させようと考える「クレイジー」な人たちのことだと考えています。それを支えている起業家精神とはいかなるものか、すこし解説してみます。

 そもそもベンチャー企業には、潤沢なリソースはありません。しかし、実現したい世界のビジョンであれば、大企業にも決して負けないものを持っています。それに、リソースが極小であっても、より優れた未来情報を得ることでリソース分配を最適化するという勝負においては、大企業もベンチャー企業も関係がありません。

 一見、世間の常識からすれば「クレイジー」に思えることもあるでしょうが、ベンチャー企業の経営者たちは、独自の未来情報に従って、自分たちの小さなリソースに最大のレバレッジを効かせようとしているのです。

 私自身も、これまでそれこそ「クレイジーだ」と周囲から何度も言われてきたわけですが、それでも自分の掲げた理念を信じ、また同じ理念を共有する仲間に支えられてここまできたのです。

まず、ベンチャー企業として生き残るためには

 とはいえ、ベンチャー企業を立ち上げたとして、その直後のことを想像してみてください。従業員は10名にも満たない数ではあっても、給与も支払わなければならず、少ない資金でなんとか「生き残る」ことを目指すしかありません。

 そんな、立ち上がって間もないベンチャー企業が生き残る方法は、たった一つしかありません。それは、「起こったこと」に対して、即座に(大企業よりも早く)対応するという柔軟性をフルに活かすということです。具体的には、顧客先で急きょ品薄となってしまった商品を大企業よりも早く納品したり、流行となっているサービスへの参入について大企業がリスクを計算している間に、先に参入したりと言ったことです。これは、意思決定の速度においてのみ大企業に勝るベンチャー企業にとって、非常に重要なことです。

 しかし、「起こったこと」に素早く対応するということは、「何かが起こるのを待つ」ということであり、対応も「起こった後」になることに注目してください。残念ですが、これは未来情報に従ってリソースを最適配分するような経営ではありません。悪く言えば、出たところ勝負なわけです。過去に起こったことに注目し、それを手がかりにして、リソースの配分を決めるという意味で、このときに従う手がかりのことを特に「遅行指標(ちこう・しひょう)」と言います。

ある規模を超えたら、しかし・・・・

 病気になってから、それを治そうと思っても、手遅れということはあり得ます。そうした状況になってしまうのを避けるためにこそ、健康診断があります。健康診断においては、血圧や体重、レントゲンや超音波検査など、様々な指標を測定することで、病気になってしまう前に、病気の原因となりえる点を見つけて、改善しようと動きます。

 実は、企業経営においても、これと同じ考え方を適用することができます。企業経営では、年次の初めに、その年度の売上と利益に関する目標数値(予算)を定めるのが普通です。そして、その予算が達成できたかどうかは、年次の終わりになるまで、正確にはわかりません。年次の終わりに、予算が達成できないというのは、いわば企業の「病気」です。

 しかし、病気になってから、それをどうにかしようと思っても、特に会社の規模が大きくなった後は、どうにもなりません。規模が小さかった時代のような対処療法的なアプローチ(遅行指標)はもはや使えないのです。

 これに対して、健康診断における血圧や体重のように、病気になってしまう前に、問題の原因となりえる点を見つけるために測定する指標がありますね。これを「先行指標」と言います。先行指標を見ながら、そこに問題があれば、問題を解決していくというアプローチは、病気にならないように健康管理をする予防医療のアプローチと同じです。

 ベンチャー企業も、規模の小さいうちは遅行指標に従った対処療法的な経営でもなんとかなります。しかし規模が大きくなれば、製品単価、顧客獲得コスト、製品原価、継続率や顧客数といった先行指標を、未来情報をベースとしてしっかりと設定していく必要が出てきます。

そしてベンチャー企業本来の姿へ

 初期の生き残り戦略の時代が終われば、ベンチャー企業はより明確に本来あるべき姿に向かうべきです。そもそもこの世界は、あるべき姿にはなっていません。社会的に多くの深刻な問題があり、ベンチャー企業の経営者である限り、そうした社会問題を自分たちの事業で解決するという使命感が求められます。イノベーションを起こし、この社会を変えることが、ベンチャー企業が存在する意味でもあります。

 では、イノベーションを起こすとはいったいどういうことなのでしょう。それは、ただひたすら改善を繰り返すような態度とは決別し、この世界のあるべき姿を常に思い描き、場合によっては「クレイジー」な決断を行い、リソースを配分することが必要です。

 ところがベンチャー企業であっても、組織が大きくなると、運命として常識にとらわれてしまうことになります。常識とは多数派の意見のことですから、それも仕方のないことです。このように、大組織がイノベーションに踏み切れない姿を特に「イノベーションのジレンマ(ハーバード大学クレイトン・クリステンセンの主張)」と言います。

 このジレンマを超えるために必要なのは、ベンチャー企業であっても、イノベーションに取り掛かるときは、経営者のコミットを受けた小さなプロジェクトチームを組織し、そこで自由闊達な議論を展開するということなのです。

 遅行指標時代のすばやい意思決定と、先行指標時代の正確な未来予測のどちらもフルに活動させるのが、ベンチャー企業が飛躍するための真の条件であり、大きなチャレンジなのです。

PROFILE

石田宏樹(いしだ・あつき)

1972年佐賀県生まれ。98 年3月慶應義塾大学総合策学部卒。在学中に、有限会社リセットを設立、取締役に就任。同年10月、三菱電機株式会社よりISP立ち上げ依頼を受け、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット( DTI)設立に参画、99年4月には同社最高戦略責任者に就任し、顧客満足度No.1プロバイダー」に育て上げた。2000年5月、株式会社フリービット・ドットコム(現フリービット株式会社)を設。2007年10月、DTI を買収、2008 年9月に完全子会社化した。2007年3月20日東証マザーズ上場。第11回企業家賞受賞。

一覧を見る