会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2011年12月号掲載)
新たな「中期経営計画(2011~2013年度)」を策定し、マーケットインフラに更に磨きをかけて個人投資家を含む利用者の裾野を拡大、高い流動性の獲得を目指す東京証券取引所。今回はその中でも新規上場の活性化に向けた施策を掲げる営業本部長の土本氏にマザーズ制度改革を含める証券市場の現状とこれからについて聞いた。(聞き手は本誌副編集長 徳永健一)
低迷していた証券市場を活性化
問 最近の証券市場はどのような状況でしょうか。
土本 昨年一昨年と、ジャスダック含めオールジャパンベースでもIPO(新規株式公開)の会社数が10から20社台と低迷が続いていました。セカンダリーマーケット(流通市場)とIPOのプライマリーマーケット(発行市場)というのは、ある意味表裏一体の関係です。ここ15年ほど遡って見てみれば、毎年100社150社、多いときでは200社上場という時期もありました。そういう意味で、もう一度IPOのマーケットを再生する・拡大する事がその後のセカンダリーマーケットの活性化を含めた証券市場全体の活性化に繋がっていくと考えます。そこで、この4月からスタートした三ヵ年計画として中期経営計画を立て、その柱としてIPOの拡大・再生を重点戦略の一つとして取り上げました。
中期経営計画の柱「IPO拡大」
問 具体的なIPO活性化に向けた取り組みについてお聞かせ下さい。
土本 国内IPO会社数は2006年以降大きく減少していきました。そこで東証グループとして3ヵ年中期経営計画で「IPO拡大」を掲げ、これに向けた環境整備や上場企業向けサービスの充実、国内外の投資魅力のある企業の上場促進を進めており、具体的には3年後には毎年60社の新規上場会社をお迎えするような市場にしていきたいと考えております。昨年20社、一昨年13社という時代もあり、そこからすると3倍くらいの数字になっています。この毎年60社をコンスタントにずっと続いていくという事が、安定し信頼のおける、成長していけるマーケットだと考えています。
同じように上場会社数も5年程前をピークに純減しているのでもう一度、純増の状態にしたいと考えています。少なくとも一定のレベルを維持できる状況に持っていきたいと考え、それが活性化のひとつの姿だと思っています。60社が多いか少ないかという見方があるとは思いますが、まずは中期経営計画の3年後の目標として60社、その後それをしばらく続けていきたいと思っています。それはある意味、質を落とさずに信頼できるマーケットを維持つつ活性化を図る事に適うのではないでしょうか。
今まではIPOマーケットにおいて私たちは黒子的な存在であり、上場を希望される会社の審査をするという機能もグループの中にあるため、どちらかといえば受身姿勢でした。しかし現在においては、中期経営計画の中でIPO拡大を大きな柱として掲げ、実際に様々な関係者のところに飛び回って制度改革のニーズを把握していくことを行なっています。
新興市場「マザーズ」の改革
問 2011年になってIPOやベンチャー企業を取り巻く環境の潮目が変わったようにも感じます。いかがでしょうか。
土本 一つは、もともと上場準備されてきた会社の中でもリーマンショックのような問題で一時的に業績が悪くなってしまったという事もあるでしょう。しかしそういった会社が、再び上場を検討できるような状況に回復してきています。
また、私たちの現実的な施策として、この半年間にマザーズの制度改革を行ないました。今般の制度改革では、改めてマザーズ市場が東証一部へのステップアップ市場だという位置づけを明確にするというコンセプトを出しています。つまりマザーズというのは、上場後早い段階で成長をし、それを梃子に一部に上がっていくという市場です。一方で、会社によって成長のスピードは様々ですが、マザーズに上場してから10年経った時点でもマザーズに上場し続けている場合には、原則、二部に移っていただく制度にしております。それが明確になったことにより、現在マザーズに上場している会社の中でも早い段階で一部に行こうという意向が強くなるのではないかと考えております。
さらに、上場前あるいは上場後に短期的に赤字が出る、あるいは赤字が継続する場合でも成長イメージが合理的に説明できる場合、マザーズに上場できることを今回明らかにしています。
新設された上場推進部について
問 東京証券取引所も時代にあった形に変化しているのですね。組織変更もあったようですがどのような形態を取っていらっしゃるのですか。
土本 4月から私たちは営業本部を立ち上げました。営業本部全体で60名のスタッフがおり、2つのセクションがあります。IPOの拡大・再生をする上場推進部とマーケット営業部というトレーディングの活性化を主体とするセクションです。その中でこのIPOをサポートする上場推進部は、従来1つの部内の1セクションとして活動をしていたのですが、今回IPOの拡大を組織面でも強力に推進していくため、上場推進部に格上げして活動しています。IPOの拡大は私たちだけで出来る訳ではないので、このIPOマーケットの関係者である引受証券会社、あるいは上場を希望されている会社の監査法人の方々を、最大限サポートしていきます。共にIPOマーケットのパートナーとしてこのマーケットをもう一度再生していこうという訴えがけをしており、そのパートナーの方々にも力強く支えていただいています。
さらにETFという商品がありますが、これは例えば日経平均の構成銘柄225銘柄を1つのパッケージにしたような、あるいは東証でいうとTOPIXという指数がありますが、この指数と同じように動く投資信託があります。このような商品が100銘柄ほど上場されていて、この売買を活性化していく事が中期経営計画のもう一つの柱となっています。それに対応する組織としてマーケット営業部が出来ました。
実は、東証として営業本部を作ったのは初めての事なのです。そのことからも、東証がIPOの拡大に本気で力を注いでいることがお分かりいただけると思います。
能動的な営業へ
問 上場推進部には、経験豊富な精鋭が集まっているそうですね。どんな活動をされているのですか。
土本 東証の制度について単にパンフレットを持ってご説明に伺うという訳ではありません。これまで実際に上場の審査を10年や15年手がけてきた経験者を何人も上場推進部に異動させました。また、そういった人間も何年も審査の立場を離れるとだんだん現場感覚が風化していきますので、ローテーションで人事異動を挟みながらやっていきたいと考えております。
我々は、上場を希望される会社、あるいはこの会社であれば上場を検討されても全くおかしくない会社と直接会い、東証の制度、上場の話をさせていただいています。上場準備は何度も経験するものではありませんので、上場準備中には様々な疑問が出てくるものです。我々はそのような会社にも直接お会いし、上場の審査を行っていた経験から上場準備における疑問点の解消にも努めております。例えば、マザーズに利益の具体的数値基準は無いものの間違った情報が一人歩きをしてしまう事もありますので、そういった誤解が無いように直接私たちが東証の仕組みを説明しており、現在20数名が毎日のように出歩いています。
机の上や会議室だけの営業ではなく、こちらから出向いていく事によって私たちの上場制度なりスタンスなりを直に話させていただく、あるいは未上場の会社はどういう所が上場のネックになっているのかをお聞きします。一方で質を維持するためにどうしても変更できない基準もありますが、事情によっては柔軟に見直せるというような事柄もありますので、現場の声に最大限耳を傾けていこうとしています。
第2回東証ベンチャーフォーラムの開催
問 未上場ベンチャー企業に対する上場支援の強化として、一番の目玉は何でしょうか。
土本 今力を入れているのが11月11日開催予定の東証ベンチャーフォーラムです。そこでは、これから上場を考えてみようという初期段階の会社と、実際に上場するにあたって必要な引受証券会社の方々とのマッチングの機会を私たちは提供していきたいと思っております。今年1月に開催した第1回目では実際にマッチングが出来まして、今それをきっかけに実際に上場準備に入っていこうという会社が出てきています。引受証券会社など市場の関係者の方々も評価していただいておりますので、これをぜひ拡大し継続していきたいと思います。
問 具体的にはどういったプログラムが予定されているのでしょうか。
土本 今回アニコムホールディングス社長、小森伸昭氏に講演をしていただく予定です。その前にアローズをテレビでは見たことがあるけれどなかなか実際には見たことがないという方々がたくさんいらっしゃいますので、まずはアローズのツアーをして、東証はこういうところだというのをご認識いただいた上でのプログラムになります。
基本は上場のメリットがあるのかという事にまだ確信を持てない経営者の方々もたくさんいらっしゃると思うので、アニコムの小森社長に上場してどんなメリットが享受できたか、そんなお話をいただき、併せてマザーズの制度改革の内容をまだ皆さんにご理解いただけ切れていないので、弊社の担当から一連の概要をご説明する予定です。さらには、今回も上場を検討されている方と引受証券会社のマッチングの場を提供したいと考えています。申込みは東証のホームページから受け付けておりますので、これから上場を検討または準備しようと考えていらっしゃるベンチャー企業の方は是非ご参加ください。このように今後は、投資魅力ある会社を発掘してIPO数を安定的に増やしていき、証券市場を活性化する活動を展開してまいります。

P R O F I L E
土本 清幸(つちもと きよゆき)昭和34年生まれ。昭和57年4月、東京証券取引所入所。平成16年4月、東京証券取引所上場部長。平成19年6月、同執行役員。同年10月、東京証券取引所自主規制法人常任理事。平成23年4月、東京証券取引所常務執行役員営業本部長、現在に至る。