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Vol.15【日の丸キャピタリスト風雲録】日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代 表 村口和孝

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

若者の起業家入門ゼロから成功する基礎知識

(企業家倶楽部2010年8月号掲載)

好き嫌いを言わず行動しじっくり観察せよ

 起業家に限らず、そもそも若者がこの世の中で生きていく上で、重要なこと学ぶべきこととは何だろうか?その社会で学校を卒業した時、経済的な生産者として生きていく考え方と術(すべ)とを身につけることが何より肝要ではないか。まず社会全体の姿をしっかり理解する事が重要だが、どうやったら自分のものとして理解できるのか。またその延長線に起業家の成功する生き方があるのだと確信する。

 社会に対する好き嫌いは当面辛抱せよ。まず、じっと世の中の成り立ちを眺めてみよう。地球も宇宙も社会も、同様にその事実現実を受け入れ、共通点や一見矛盾に見える違いをよく観察して、その不思議さをたっぷりと味わう時間を持つのだ。さらにすでに体験をした様々な人の話に耳を傾ける事も、社会を理解する勉強になる。(なお人から意見を聞くときは、それが意見なのか事実なのか区別するように注意が必要である。)

 つまり世の中を観察し理解するためには、机上の空論ではなく、まず積極的な行動が必要だと云う事である。大まかな概要をネットで調べたら、何よりもまず行動することを考えよう。自らその場所に身を置いて、あるいは様々な異なった意見を持つ人から話を聞いて、最初意味は分からずとも、はじめて体験としての観察結果が、得られた直感と共に、体の中に浸み込んで来る。体のすみずみに、一週間なり行動して学習した観察と印象をしみ込ませよう。

自分の意見、未来仮説を持て

 行動し観察したら自分の意見、未来に対して仮説を持つように意識しよう。現在の実体現実をどう表現説明し、どこに矛盾や可能性を感じるのか?何が望ましいのか、より良い社会とは何なのか?時代はどう変わるのか変えられるのか?未来はどうなるのか?

 いかなる成功も、経済の世界が変わる潮に乗らないと実現は出来ない。だから変化に注目する事だ。ただ誰にとっても未来を完全に予言する事は不可能だ。(それが逆に若者にとって嬉しい事で、誰にでもチャンスがあると云う事でもあるのだ。)よく世の中を観察していると、未来を予測するきっかけは、生活の周りにもいろいろある。

 歴史を振り返ってみれば、産業の栄枯盛衰が我々の先輩たちの人生ドラマに悲喜劇を生んだ物語を知る事が出来る。19世紀産業革命は文明社会を一新したし、1970年代以降半導体技術の進化によってコンピュータが人類の歴史を変え、また1990年代以降ネット通信によって世界が変わろうとしている。では、2050年ごろの生活や世界はどうなっているのだろうか? 起業家はいろいろな未来に対する仮説を考え続けているものである。

何でも積極的に勉強し、活動せよ

 時代変化仮説を持つ為には、そもそも地球と人類社会はどういう構造になっているのか。天才でなくて良いが、高等学校教科書程度の知識と、コミュニケーション能力は無いと困る。一般の受験勉強は進学のためには重要かもしれないが、有名大学を出ていても基本的な教養の無い人は多い。私の知る限り、たいていの成功する起業家は例外なく、様々な事に興味を持ち、卒業後でも毎日よく勉強している。最低限の勉強は、毎日積むことが重要だ。また、英語と中国語くらい勉強し続けていても良い。

 あと誠実に人と交わる社交活動の訓練も重要だ。経済活動は人と協力することで、商品を仕入れ加工販売して提供でき、また商品を購入してくれるのは他人である顧客であるので、事業活動そのものが閉じ籠っていては出来ない。小学生の頃他人との話が苦手な人も、徐々に慣れて来て、一生苦手なままという事はまずない。特に価値観の異なる他人を受け入れる寛容さと素直さは最低限必要だろう。

 こう考えると小中高の教育は重要だ。ある意味、受験だけの為に教科を捨てたりする話を時々聞くが、長い人生もったいないと思う。

経済社会の構造を理解せよ

 さて、我々が生きているこの経済社会とは何だろう。この地球上で、様々な異なる価値観及び生き方をする人間が、お互いに関係し合いながら毎日生活を営んでいる。ある者は所帯で家族生活しており、ある者は単身で生活している。すべての人が衣食住の消費者である。マンションや一戸建てに住み、スーパーで食材を買って料理したり外食したり、着ている服はたいがい商店街か衣料品店で買ったモノだろう。これらはすべて消費活動である。

 消費される商品やサービスは誰かが生産したものだ。地球上の経済全体を見れば、生産者は人類の一部である。子供のように消費しかしない人もいる。ある生産者はサラリーマンだろうし、ある者は自営業者だ。一般的に家族の誰かが経済的生産活動を行って収入を得ることで、子供や老人など家族の消費がまかなわれている。生産者として稼ぐことを職業に就くと言っている。人生でどんな職業を選択するか、ここで未来仮説が大切になって来るのだ。

 消費すべき商品やサービスは、提供(供給)されるために膨大な準備が必要である。準備作業をするには時間とお金が必要であり、このお金を資本と呼ぶ。資本は自分で準備しなくても調達の方法がある。一つは投資家から出資を受けることであり、もう一つは銀行や知人などからお金を借りることである。この二つは資本の出し手と受け手の契約関係が全く異なることに注意が必要だ。出資金は基本的に事業結果の成功も失敗も、お互いが分配し合うパートナーシップの関係で、出資者は会社の経営権の一部を持ち経営陣を選ぶ投票権も出資シェアに応じて有するかわり、資金返済はしなくていい。一方借入金は事業が失敗しても返済を必要とし、通常担保と保証人と金利(年間2から10%)が必要で、最悪事業が失敗して返済出来なければ破産する。

 資本を出してもらう方法が出資であれ融資であれ、資金の出し手の説得が必要となる。そのプレゼンテーション資料が事業計画である。いずれにしても事業準備を他人から資金を出して貰う事は責任の重いことで、高い誠実責任が伴うとともに、事業は必ず成功するとは限らないので、資金の出し手には経過と結果の誠実な説明が必要だ。

 資本を出して事業を行うための一般的な組織が株式会社であり、基本ルールである定款や株主名簿を備えて法務局に登記する。事業によって法律が準備されており、病院を経営するには医療法人、学校を始めるには学校法人を、司法書士や弁護士などに協力を得て設立登記する。

事業を準備せよ

 集めた資本で、いよいよ事業をスタートするが、衣食住や通信交通、どんな事業でも商品の販売活動に入るまでの準備活動に、通常数ヶ月から十数年を要する。商品サービスを完成するに至る過程は複雑だが、基本的には潜在顧客の仮説を作り、仮説的な商品を作成努力する。実際に初期の協力顧客に買って試用してもらいながら、本格的に市場投入する商品サービスへと完成度を上げていく。学習学習の毎日である。いわゆるキャズム超え前段階である。

 正しい商品を正しい顧客に正しい方法で売らなければ事業が成功する訳が無い。その為にもこの商品サービスが開発され完成する過程の初期顧客への販売実験の学習過程はとりわけ重要である。

 その間、総務や経理など事務所の最低限の機能を小資本で立ち上げる。このとき重要なことは簡潔かつ世界で通用する仕組みを導入することだが、最近はネットが発達してSaaS等クラウドサービスも低廉かつ充実している。スケジュールや会議の調整など総務機能もネットを使って廉価便利に、また銀行もATMに行列を作らずともネットで処理が出来るようになるなど、時代はますます小資本で起業しやすくなっている。

商品を作り販売体験を学習せよ

 さて、準備作業の上商品サービスが完成しても、材料の交渉仕入と加工、雇用、販売、財務活動が必要だ。供給体制を組み立てる場合、タイヤ4本に対し自動車一台というように、仕入れたものを加工する順番と組み立てる順番など、事業には相互の作業に重要な関連性があり手配が必要だ。

 そこで加工するピッチや仕入のピッチ、販売のピッチに注意しないと、それぞれの段階で余計な在庫を抱えることになる。

 また、作業が早すぎたり遅すぎたりすることで滞留するプロセスを「ボトルネック」と呼んで作業の仕方によく注意しなければならない。特に販売で客を待たせることは、本来売れる機会を失することから「機会損失」と呼ぶが、これが出来るだけ無い様にしなければならない。起業家は実際の作業や交渉を通じ、ノウハウを学習蓄積して行く。

 オペレーションを計画的に共同作業するためには、会議などレポートラインを決め、初期顧客など重要情報のファイリング、行動のスケジュール化が避けて通れない(生産管理とPLAN  DO SEE)。

事業モデルをストーリー化せよ

 おおよその事業の骨格が見えてきたときに、起業家はこの事業が本当に儲かる事業なのか、継続成長できる事業なのか、大きな投資をする前に今一度踏み留まって検討する必要がある。社会的には役に立っても、結局は損益分岐点を越えられない事業だっていっぱいある。それを確認してから大型投資をしても遅くない。成功する事業家は常に慎重である。

 また、商品が顧客に売れていくストーリーがなければならない。競争はどうなのか、顧客の特性はどうなのか、顧客は何を求めているのか、商品の使い勝手を良くする周辺の協力関係にある商品サービスは社会的に整っているのか、人口や市場規模、経済規模など整っているか、よく研究して収益化と成長性をストーリー化しなければキャズムは越えられない。

 この出来あがったストーリー(ビジネスモデルと言う)で良しとなれば、そこから全速前進で生産活動と販売活動を展開し、顧客開拓し、ライバルと闘って市場占有率を確保しようとする。起業家はその経過を、毎月又は三カ月に一度定款に基づいて役員会を開き、事業報告しながら組織整備を適正化する。

人事組織と経理株主総会を運営せよ

 能力ある人を就業規則を作り給料を決め採用して働いてもらう。起業家にとり人事は経営のノウハウであり、人を動かすには人間力のいる事だ。

 事業活動に資金が必要である事は述べたが、使った費用は支払った相手から領収書を貰って帳簿に記録してゆく。また売上はレジスターや、振り込まれた銀行の預金記録に記録され、それを経理処理することで、決算書(貸借対照表、損益計算書、CF計算書)が作成される。これを公認会計士等に監査して貰って、株主総会に事業報告する。また税理士に相談して確定申告し、税金を払って、損失や利益を株主に帰属させ、幸いにも利益があるなら株主総会の承認によって配当する。また成績が良ければ株式上場も夢ではなく、株価も上がるかも知れない。

学校の勉強は大切だ

 こうやって長期に渡る忍耐強い起業家の成功の道をたどってみると、クラブ活動を含め、やはり学校の勉強は重要である。教育の目的は、賢い消費者を育てることも重要だが、消費すべき商品を生みだして社会でたくましく自立して生きていける、生産的創造的な人材を育てる事が必要である。学校のすべての教科が、若者にとって将来の仮説を持ち、生きて行く上での基礎となる事を今一度再認識して、良く勉強してほしい。

著者略歴

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝 《むらぐち かずたか》1958年徳島生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。84年現ジャフコ入社。98年独立し、日本初の投資事業有限責任組合を設立。07年慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師。社会貢献活動で青少年起業体験プログラムを品川女子学院等で実施。

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