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Vol.47【日の丸キャピタリスト風雲録】日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代 表 村口和孝

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

事業機会の発見方法 フィンテックとコロボット 新時代の大スターとなるために

(企業家倶楽部2016年1・2月合併号掲載)

新時代の大スターとなるために
 人が起業して成功するためには、時代激変の暴風が吹き荒れる最先端で、貢献する商品サービス(スマホのアプリや新しい自動車など)を供給する位置にいることが大切だ。そして、新しく生まれる顧客のニーズと顧客候補が学習して本当に買いたくなるまでに、辛抱強く試行錯誤を繰り返し、困難を乗り越えていくことが重要だ。また、供給体制を実現するためには協力者が必要で、参画してくれるよく働く人材スタッフ、未知な仕事に取り組んでくれる取引先が必要となる。また立ち上げまでの資本を、実績が出ていない状態から、長期間辛抱強く提供してくれるベンチャーキャピタリストの活動も不可欠である。

 ただどんな起業家も、ダメな領域で事業を成功させることは難しい。時代は必ず激変し、振り返ってみると、その時代激変分野の中で、新しい産業社会の大スターが登場している。明治の女性実業家で日本女子大学を創設した広岡浅子(NHK朝ドラ「朝が来た」主人公モデル)が、石炭で成功したのも、DeNAの南場智子さんがモバオクやモバゲータウンで成功したのも、時代の激変が背景にある。起業家は時代の激変を味方にする。
 
タイミングの問題

 時代の激変には予兆があるが、しばらく助走期間があり、新商品の供給体制が社会で整って、顧客のニーズに火がついて、ようやく時代が激変した、と言える現象が顕在化する。時代が変わった後から、ノコノコ参入してもレッドオーシャン状態で競争が激しく、成功はおぼつかない。出来れば、予兆に過ぎないまだ早いぐらいの時に、数年後を予測して、スタートを切るのが理想である。ただ早くスタートし過ぎると、以下の問題が生じる。

1.新し過ぎ、顧客のニーズが不顕在

2.実際の顧客の絶対数が少なすぎる

3.新製品の供給体制が整わない

4.新し過ぎ、ついて来る取引業者がいない

5.顧客が使用困難で、販売体制作れず

6.消費量が少ないので、顧客が要求する価格に、原価が合わない

7.立上ると思ったが、時間かかり過ぎ

8.社会的必要性に、事業性が追いつかない

9.資金が続かない(投資家の不理解)

10.組織人型スタッフがついて来れない

 つまり、どこかに重大な課題があって、立ち上がらないことが多いのだ。それを、あえて早めに参入して、早過ぎず波に乗るのは、サーフィンの波に乗ることに良く例えられる。早過ぎても遅すぎても波に乗れない、という訳である。

2つの波を組み合わせる

 さて、どの波に乗るのか、バイオなのか、スマホなのか、フィンテックなのか、ロボットなのか、IOTなのか、4Kなのか、東京オリンピックなのか、高齢者社会なのか、この時代のトレンドには、実は二種類の話が混ざっている。まず、時代の波を、顧客ニーズの波なのか、供給イノベーションの波なのか、に分類してみると良い。

1.新しい顧客ニーズの波

 高齢化社会の到来、人口の変動、地方創生、東京オリンピック2020、外国人の爆買い、スマホの普及、4K放送の普及、もっと便利に安く

2.供給イノベーションの波

 iPS細胞、ロボットの高性能化、ドローンの進歩、IOT技術の発展、ハードウェアのバーチャル化、モニターの4K化、要素技術の進歩、低コスト化

 このどちらかに分類する思考を持っていると、波を見誤らなくて済むことが多い。例えば、農業だ。農業はどちらなのだろうか?農業は商品サービスではないから、一般的に供給イノベーションの波だ。農業の工場化、とか農業の大規模化などだ。農業に関する顧客ニーズの変化は、食品スーパーやレストランでの農産物の消費動向の変化、ということになるだろう。いったい、起業家が新しい事業計画を作成するにあたって、どの種類の波を、どのように捉えようとしているのか。ネットでニュースを見るとき、話を聞くとき、この分類が出来ないと、事業構想のビジョンが混乱している。具体的に、自分が起業家だとして、どの波を選ぶか、検討する時、どうすればいいのか?二つの波を組み合わせて考えることが重要である。

 まず、新しい顧客ニーズの波の検討だ。人々の生活、衣食住遊の変化から、観察することが出来る。特に、大きな影響があるのが、人口動態の変化と、地域社会のマクロ的経済レベルの変化だ。人口動態は、国や国連から、予想が発表されており、大きくは狂わないと言われている。人口の年齢別の変化によって、中国やインドが将来消費地として重要な役割を持つことが予測できる。それから、マクロ的な経済規模の分析によって、国民一人当たりのGDPが一定以上になると、地域社会全体が先進国並みの、いわゆる豊かな生活をするようになってくる。毎日のニュースなどから、未来の仮説を持つことである。さて、貴方のプロジェクトは、どの新しい顧客ニーズの波を、とらえるつもりだろうか?

 次に、供給イノベーションの波の検討だ。技術の進歩という表現で、ニュースや話題に登場することが多い。単に性能が上がったという話だけではなく、新しい解決方法が見つかったとか、劇的に商品や部品の値段が下がった、というニュースにも敏感でなければならない。

 早からず、遅からずのケースとして、私が目を付けた、フィンテックの最先端分野ブロックチェーンと、ロボットの新分野を、事例として見てみよう。いずれも、新しい顧客ニーズの波と、供給イノベーションの波が重なり合うイメージがある。

フィンテックとブロックチェーン

 私がこの領域に関心を持ったのは、20年くらい前のことだ。金融が事業に影響を大きくもたらすことは、為替の変動を見れば明らかだ。為替がドル240円から80円に、そして120円になるということは、経済に巨大な影響をもたらす。ある人が何もしないで、突然為替の影響で大金持ちになったり、貧乏になったりする。海外旅行に行ってハンバーガーを買ってみると、為替によって高く感じたり、タダみたいに安く感じたりする。この通貨という商品は、非常に完成度の低い仕組みだな、絶対に長期的に激変する領域だなと思い、様々な人に訴えて来た。「人類を幸せにする新しい通貨の領域でイノベーション起こすベンチャーに投資したい」と。

 さらに10年くらい前には、ネットでXML技術が普及し、銀行のデータベースをネットでAPIで吸い上げて、クラウドで活用すれば、決済などの領域で、凄いニーズがあるのでは、と話をしていたら、最近、そんなネット金融領域を、「フィンテック」と呼ぶようになった。さらに、2009年からビットコインという「暗号通貨」がネットで普及した。さらにその基盤となる分散ピアツーピア(P2P)での暗号履歴記録方式である「ブロックチェーン」技術が、決済などのITシステムに応用できるのでは、と注目されている。これまで集中サーバで使用される様々なリレーショナルデータベースに代わる安価かつ安全で簡便な技術として、業務システム基盤技術として使用可能だと、市場が立上り始めた。

 この領域で注目しているベンチャーが「テックビューロ(朝山貴生社長、暗号通貨サービスZaif、ブロックチェーンmijin)である。先頃、インフォテリア(平野洋一郎社長、業務用連携ソフトASTERIA)と業務提携を発表した。テックビューロは、新しいフィンテック技術を縦横無尽に試行錯誤できる実力を持った会社で、今回の事業提携は、業務システムで実績を積み上げすでに信用を得ている技術の分かる先輩起業家が、技術はあるがまだ納入実績が不足している後輩起業家と連携するという、面白い提携となっている。

肘無しコロボットCORO

 ロボット領域と言っても、実際に事業を発展させるためには、顧客の存在、およびニーズの高まりと、技術の充実による質の高い製品化が必要不可欠である。大きく4分類である。①FUNUCや安川電機に代表される無人の機械工場の中において、金網で囲われて巨大な精巧ロボットがビュンビュン仕事をしている動画を見たことがあると思うが、あれが「無人製造用ロボット」。②サイバーダインなどに代表される身体に装着する「装着用ロボット」③マツコロイドなどに代表される人そっくりの「人型ロボット」。④人が現場で一緒に働けるロボット「コロボット」、である。

 まだ始まったばかりの領域がコロボットであり、私は面白いと思う。ドイツ、メルケル首相のインダストリー4.0における、人と協労するロボット(コロボット)の稼働に関し、社会的に受け入れる素地が出来つつあることが大きい。中国等の労働コストの上昇と高齢化到来がコロボット市場ニーズ立上りの背景にある。ロボット部品の低コスト化も重要な要素だ。元々ロボットは「人間を超えた能力」を持つからこそ価値があると考えられてきたが、超えた能力は作業員の予測を超えた動きをするために、死亡事故など多くの事故を起こしてきた(だから金網に隔離されてきた)。無人産業用ロボットに比べて、コロボットは、何より作業員と一緒に働ける安全性が重要だ。

 2015年12月国際ロボット展に登場した国産コロボットが、ライフロボティックス(尹祐根社長)のCOROである。産業総合研究所発の50件以上の特許を持ったベンチャー企業で、肘が無く、鼻が伸びる象か、カタツムリのように動きがシンプルな直動伸縮のアーム技術を持っている。これまでの、器用だが、肘があって作業員の行動予測がかなわない、よく見かける産業用ロボットと比べると、動きが素人のパートの作業員にも簡単に予測が出来る動きのシンプルさに、強烈な特徴がある。

 これまで、ロボットが危険なために導入が進まなかった世界中の食品加工業など軽工業工場へ、スーパーカブ(原付自転車)のような簡単さでの導入が、期待されるのだ。


著者プロフィール
日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝(むらぐち・かずたか)

1958年徳島生まれ。慶應大学経済学部卒。84年ジャフコ入社。98年独立、日本初の独立個人投資事業有限責任投資事業組合設立。07年慶應ビジネススクール講師。社会貢献活動で、青少年起業体験プログラムを、品川女子学院、JPX等で開催。ふるさと納税提唱者。投資先にDeNA、ジャパンケーブルキャスト、テックビューロ等がある。

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