会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2017年4月号掲載)
(今を生きる 前編)
成功体験にとらわれない
問 ジャパネットたかたは、ラジオショッピングが転機になり、テレビショッピングでさらに事業を拡大、通販業界で大成功を収めました。その過程で大きな失敗はありませんでしたか。
髙田 私はやらなかった失敗はあっても、一生懸命にやった失敗はないと思っています。毎日300%の力で取り組んでいるという自負がありますから、他人から失敗に見えても、私には試練と映ります。
多くの人は失敗したことを後悔するのではなく、ベストを尽くさなかったことを後悔するのではないでしょうか。
問 失敗をどう捉えるかで仕事にも影響がありますね。
髙田 毎日多くのテレビショッピング番組を放送します。本番が終わると全てのスタッフが参加し、必ず反省会をします。伝えたい想いをちゃんと伝えることができて、思った通りの売れ行きになればいいのですが、結果が出ないときがあります。
この反省会でもっとも重要なことは、売れなかった理由を探すのではなく、売れる理由を探すことです。失敗の中から、次に活かせる可能性を見い出し、次はどうするかを話し合うことです。
商品が売れているときも、毎回同じことをしていては、お客様に飽きられてしまいます。日々、工夫をして変わることが重要です。
問 例え売れたからといっても、毎回同じことをしていてはいけないのですね。成功パターンを捨てる。それは勇気のいる決断です。
髙田 人は失敗すると反省し、今のままで良いかと考えます。反対に成功するとどうしても同じやり方を続けたくなるものです。しかし、それでは成長や発展はありません。
世阿弥は、観客の心に新鮮な印象を残したものだけが、すなわち花だと説いています。舞台に必要なのは花だと考えていました。花は新鮮さと驚きが全てです。一度演じて好評だからといって、同じやり方を繰り返しては、魅力は消え失せてしまいます。
世阿弥は今で言うイノベーターではないでしょうか。演技や構成にあらゆる面で変革を起こし続け、その地位を築きました。同じ場所に留まらず自己更新を続けたのです。ビジネスも同じですね。ワンパターンだと飽きられてしまいます。失敗から学ぶことも重要ですが、うまくいっても成功体験にとらわれないことが長く活躍できる秘訣ではないでしょうか。
事業承継には覚悟が必要
問 2015年1月社長交代、16年1月番組出演卒業。それから1年経って、もし1つだけ遣り残したことがあるとしたら何かありますか。
髙田 会社に対しては、社長を交代してもう2年経ちましたから、アドバイスを求められたら、テレビでもラジオでも何でもしますが、自分が再び前線に立つということはありません。
今日も1000人ほどの前で講演をしてきましたが、事業承継には皆さん興味があり、半分の人が手を挙げていました。事業を譲渡するのは覚悟がいります。逆に言えば、私は覚悟があるから社長を交代しました。
それでは不安は無いかといったら、当然不安もあります。だけど次の社長を信じたら期待もあるではないですか。私は会長職には就かず、完全に経営から離れました。しかし、会長職のある会社もあるでしょう。
講演でお会いした若い社長から「会長が口出して困る」とよく相談を受けます。そうではなくて、社長は耳を傾けてあげるだけでいいのです。そして自分が好きなように決めればいい。そう話すと皆笑います。話も聞かないで入り口でシャットアウトしたら創業者だって怒ります。
私は言い残したことはもうありません。いつも心の中で応援していますよ。新しい社長は上にたつと自分で決断しないといけません。会社のすべてのものに最終決裁者となるわけです。その経験を積めば積むほど経営者として成長します。
問 社長交代して会社で何か変わったことはありますか。
髙田 はい、休暇制度など変わっています。世の中が日々変わっているのですから、会社の有り様も変わっていきます。高齢化社会が進めばまた変わります。地球温暖化など環境が変わればさらに変わります。いろんなことに影響されて世の中は変わっていくのですから、それにトップが変化対応できなかったら企業は生き残れません。それは簡単なことではないですが、トップになる人の課題ですね。
問 御社は以前から社員を大切にされていますが、顧客満足と社員満足の関係はどうお考えでしょうか。
髙田 社員満足(ES)がなかったら、社員は顧客満足(CS)を作ろうとはしないでしょう。CSだけをつくるために社員が残業したり、給料も上がらない状態だったら、最終的には顧客満足は実現できません。
企業は社員の人生を預かっているのです。大きくなればなるだけ社員の家族も含めたものを全部背負う責任があります。だから弊社はカメラ販売を始めたころは5人だったのが今は2500人、家族も含めたら約5000人の将来を背負っているわけです。
問 若い人に期待することは何でしょうか。
髙田 仕事のやりがいが何かと問われれば、結論は1つ「お客さんの笑顔を見ること」です。そこを感じたときに人は「仕事は面白い。やってよかった」と思う。最終的にはお客さんの笑顔を感じる社員の集合体を作っていくことではないでしょうか。まだ課題もあるし、難しいが、是非やり遂げてもらいたいです。
問 髙田さんの今後の夢は何でしょうか。
髙田 人生、何を始めるにも遅すぎることはありません。世阿弥は、好機に咲いた一時的でやがては散ってしまう「時分の花」と比較して、生まれ持った才能に加え、努力の積み重ねによって高められた能力のことを「真の花」と読んでいます。
私はやりたいことが沢山あります。あと50年、夢を持って今を生き続けていきたいと思っています。
P R O F I L E 髙田 明(たかた・あきら)
1948年長崎県生まれ。大阪経済大学卒業後、機械メーカーへ就職し通訳として海外駐在を経験。74 年父親が経営するカメラ店へ入社。86 年「株式会社たかた」として分離独立。99年現社名へ変更。90年ラジオショッピングを期に全国へネットワークを広げ、その後テレビ 、チラシ・カタログなどの紙媒体、インターネットや携帯サイトなどでの通販事業を展開。15年1月同社代表取締役を退任。同年A andLive 設立、代表取締役に就任。14年第16 回企業家大賞受賞。