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【イベント・レポート】 獺祭の旭酒造主宰

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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左から桜井一宏社長、桜井博志会長、受賞者2人、弘兼憲史特別審査員

2024年1月12日、「獺祭」の醸造元である旭酒造が主催する「最高を超える山田錦プロジェクト2023」の表彰式が開催された。過去最多という144件のエントリーの中から、グランプリに輝いたのは、福岡の農業法人ウィング甘木である。賞金は3千万円が贈られた。これは「農業に夢と未来を」と考える旭酒造がスタートさせた大きなチャレンジである。

(リポート三浦千佳子)

  

東京の帝国ホテルには多くの人が集まっていた。どの顔にも晴れがましい緊張感が溢れている。「獺祭」でお馴染みの旭酒造が主宰する「最高を超える山田錦プロジェクト2023」が始まるのだ。これはその年最も優れた山田錦を生産した生産者を表彰するというもので、今年で5回目となる。獺祭の樽が飾られ華やかな会場には300人の関係者が詰めかけた。

午前11時イベントはスタートした。

冒頭、能登半島地震により被災された方々のご冥福を祈り黙祷が捧げられた。

挨拶する桜井一宏社長

農業の未来を一緒に創りたい

まずは桜井一宏社長が登壇、挨拶した。

「このプロジェクト開催のきっかけは、日本の農業が抱える課題です。良いお米がなければ良いお酒は造れない。農家は高齢化が進み、生産者は疲弊している。理由には努力が報われにくいシステムがあるからです。われわれはプロの努力にはしっかり対価をお支払いしたい。そして市場を創っていきたいと考えています」

「良いものを安く」を超えていく、この発想こそが先に続くと考えています。農業の未来を創ることを一緒にやらせて頂きたい」と力強く語った。

この日会場には農業に関心がある学生17人が参加していると紹介、「米にかかわらず農業に未来を感じて頂きたい」と力強く語った。

会場に飾られた獺祭

日本の農業を考える

続いて表彰式に先立ち、「日本の農業を考える」と題してパネルディスカッションが開催された。

壇上には旭酒造の桜井博志会長、特別審査員を務めた漫画家の弘兼憲史氏、参議院議員の中田宏氏、農家で山田錦栽培研究所の海老原秀正氏の4人が登壇、熱い議論が始まった。

「農家には価格決定権がない。それでは農業の未来が描けない。農家は高齢化が進んでおり離農する人も多い。だからこそ若者が入り込む余地がある。今こそ日本の農業が変わる最後のチャンス」と櫻井氏。

熱い議論を交わすパネラーたち

「お米は補助金で成り立っているが、補助金をもらう側から税金を払う方に回らないか、という夢のような話を櫻井会長より頂いたことが、頑張るきっかけとなった」と海老原氏

「良いものを作ったら評価され高く売れるという習慣にしなければ。コスパではなくパフォーマンスが先、タコスが重要」と中田氏

「品質向上を図るには一定以上の生産規模が必要。そこでAIやGPSを使ったスマート農業に進化していくことが重要」弘兼氏。などなど、貴重な意見が語られた。その熱い議論に会場からは熱い拍手が送られた。


グランプリには賞金3千万円が

続いて表彰式が始まった。まずは準グランプリが発表、岡山市の国定農産が選出され、賞金1千万円が贈られた。

そしていよいよグランプリの発表。開場には緊張感が走る

福岡の農業法人のウィング甘木の名前が発表されると、会場にはどよめきが。というのは、ウィング甘木はなんと3年ぶり2回目の受賞となったからだ。

壇上に上がった北嶋将治氏は晴れやかな笑顔で、弘兼憲史氏から優勝旗を受け取ると優勝の喜びを語った。

「前回とは違う内容で要求される品質を徹底的に追求してきた。将来は一粒がおにぎりサイズの山田錦を目指している」と語った。その位革新的なものを生み出したいという意欲であろう。北嶋氏には賞金3千万円のパネルが贈られた。これは旭酒造が優勝米の「山田錦」を1俵50万円で60俵を買い取るというものだ。

3千万円の賞金を手にする北嶋氏(右)    

左はプレゼンターを務めた弘兼氏

二度もグランプリを獲得できた最大の要因を伺うと「土地に対する感謝の想いです」と北嶋氏。先祖代々受け継がれた土地に感謝し、大切しながら生かしていくことなのだと。その真摯な生きざまが二度の優勝に繋がったのだと確信した。

この夢のあるプロジェクトがスタートしたのは2019年、今年で5回目となる。審査は酒米等級検査員ら専門家で実施され、12月1日の予審会で144点の中から、6点に絞り込まれた。そして12月21日には結審が行われ、ウィング甘木がグランプリに決定した。

優勝した「山田錦」は、「獺祭」が求める独自の基準に合致しているとして高い評価を得た。それは粒が大きく揃い、心白が中心部分により小さく入っていて高精白に耐え得ることがポイントという。この日は最終候補に残った山田錦の米粒も展示された。

グランプリを受賞した山田錦で仕込んだ「獺祭」は世界でも高く評価されている。歴史ある「サザビーズ」オークションでは、21年「獺祭 最高を超える山田錦2019年優勝米」がサザビーズ香港で約84万円、22年には「獺祭 最高を超える山田錦2021年優勝米」が、サザビーズNYで115万円で落札されて話題となった。世界でいかにその価値が高く評価されているかが伺われる事実といえよう。

 

「獺祭未来へ農家と共に」で乾杯

その後「獺祭未来へ農家と共に」で乾杯、祝宴が始まった。

「獺祭未来へ農家と共に」はどうしても避けられない山田錦の等外米を、旭酒造が買い取り、驚異の8%まで磨き上げて造ったという異色の獺祭だ。農家の方が育てた山田錦を一粒も無駄にしたくないという旭酒造の心意気が凝縮された酒で、会場は盛り上がった。

貴重な「獺祭未来へ農家と共に」

それらにしても旭酒造1社でこれだけのイベントを実施する勇気には感服するばかりだ。日本の農業に夢と未来をと願ってスタートしたというが、常に、もっと先へと現状を打破していく獺祭そのものの精神といえる。獺祭が世界で評価されるのは、味だけでなくその誕生のストーリー、もっと先へと挑み続けるそのチャレンジ精神にあるといえるだろう。



獺祭を産みだした桜井博志会長

NYでも酒蔵の中は日本流で

2023年ニューヨークの酒蔵新設のため、現地に移住して陣頭指揮を執っていた櫻井会長が現状を語った。

 2023年9月に無事「Dassai Blue」を出荷したというが、その苦労は計り知れない。アメリカ社会は分業化しておりさまざまな規制はあるが、酒蔵の中は日本流でいくと宣言、頑張っているという。「Dassai Blue」は70ドルで販売されている。 

 獺祭はある意味、国内よりも海外でよく知られている。それは櫻井親子が早くから世界へと挑み、並々ならぬ努力を続けてきた結果であろう。世界から評価される獺祭がつくり続けられるのは、まさに良い酒米、山田錦があったからといえる。 

だからこそ共に頑張りたいという思いから、「最高を超える山田錦プロジェクト」をスタートさせた。

 世界に羽ばたく獺祭のごとく、日本の農業も進化し、世界を視野にチャレンジして欲しい。それを共に実現していきたいという旭酒造の情熱が全ての原点となっている。能登半島地震という苦難からスタートした2024年だが、ここには明るい未来と笑顔が溢れていた。

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