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【先端人】アリスタゴラ・アドバイザーズ 代表取締役会長 篠田 丈氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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「日本人の資産を守り金融リテラシーを高めたい」

「日本人の資産を守り金融リテラシーを高めたい」

アリスタゴラ篠田丈会長


アリスタゴラ・アドバイザーズという会社をご存じだろうか。独立系コンサルティング・ファームとして、伝統的プライベートバンクと共に、富裕層向けの資産運用サービスを展開している会社である。会長の篠田 丈氏は「日本人の資産を守り、もっと金融リテラシーを高めるお手伝いをしたい」と語る。                             (レポート三浦千佳子)

 

自分でやるしかない!

日興証券はじめ世界の金融関連で活躍してきた篠田丈氏が、アリスタゴラ・アドバイザーズを創業したのは2011年のことである。日興証券の凄腕証券マンとして、長年フロント業務をこなし、BNPパリバ証券など世界の証券界で活躍してきた。「フロント業務は24時間臨戦態勢ですからものすごくハードワーク、寿命は40代後半なのです」と篠田氏。

実際、篠田氏も49歳で仕事を辞し、セミリタイヤしたいと考えていた。次の仕事を考えるに当たって考えたのは2つ。一つは金融業界に関連する仕事。長年の経験があるからその延長線上の方が力を発揮しやすいからだ。2つ目は自分の資産管理をどうしようということだった。ずっと運用側の世界にいたので、解放されたいという気持ちもあり、誰かに任せたいと考えた。しかしいろいろ探せど、なかなかピタリとくるところが見つからない。「ないなら自分でやるしかない!」と、創業したのが今のアリスタゴラだと語る。

 社名は「ア」から始まるか、「A」から始まるものにしたいと考えた。さまざまなアイデアの中から「アリスタゴラ」を選んだ。古いギリシャ語で 「アリスト」と「アゴラ」からなる造語だ。 アリストは「素晴らしい」、アゴラは「人が集まる場所、市場」という意味だ。 従って「素晴らしい市場」を意味しているという。 日本人には覚えにくいと言われますが欧州人には評判がいいんですと、柔和な笑顔を向ける。マンションの一室で机3つから、最初は投資助言代理業からスタートした。

 

「安心」がビジネスの基本

「欧州のプライベートバンクを回ると、歴史が長いのもありますが、必ず経営層が出てきて、自分たちの哲学、大切にしていることをきちんと語ってくれます。日本だと担当者のみ。支店長すら出てきません。担当者も自分の説明すらしないことが多い。これでは安心してこの人に任せようとは思いませんね」

 欧州のプライベートバンクの歴史は古い。200年前、まだ電気が通じていない時代から必要とされていたというのだから、その歴史そのものが顧客との信頼関係といえるのであろう。特に素晴らしいのはやはりスイスという。顧客の要望には何でも対応してくれる柔軟性がある。最近は匿名性はないものの、守ることにかけては凄いという。そういう意味では日本の富裕層の中には、スイスのプライベートバンクに預けたいと願っている人も多いのではと予測する。

金融の世界は大きく変化している。しかし「安心して任せられる」のが基本であることは変わりない。その点、「同じボートに乗っている」という信頼性は大きい。そこが運用する側の基本」と篠田氏。長年世界の金融界を見てきたエキスパートだけに真実味がある。顧客の50年、100年先のことも考えて資産管理をお引き受けしたいと熱く語る。

 

日本人はオカネに対して勉強不足   

ここ何年も日本の社会問題となっている「オレオレ詐欺」について伺うと、「日本人はすぐ人の話を信じてしまうので詐欺に遭いやすい。お金についてのリテラシーが低いというか、勉強不足が要因では」と警告を発する。                                                   日本人に限ったことではなくアジア人全般、中国人も詐欺被害に遭いやすいという。そんなにうまい話はあるはずもないのに、「あなたのため!」と言われると弱い。                   その点、欧州では詐欺被害は少ないという。「欧州では小さい時からお金の教育を実施、実利的に教えています」。日本人や中国人は高級ブランドが大好きで、若い人でもブランドのバッグを持ち歩く。しかし欧州の若者は「自分たちにはまだ早い」と自覚、持つことはしない。彼らはものすごく実利的で騙されにくいと篠田氏。確かにその通りなのであろう。

日興証券NY支店時代の篠田氏

NYでのハードなビジネス経験が糧に

 日興証券時代に7年間、ニューヨーク支店で活躍した篠田氏。早口の英語が理解できず苦労した。日本人は以心伝心で通じ合えるがこれが全くない。必要なことはきっちり伝えないと、理解されないのだ。コミュニケーションの大切さをとことん学んだと振り返る。 

また欧州の銀行にいた時は、ポストが上にいくほどハードワーカーになるということを実感した。パワーポイント資料なども部下に任せず、自分でつくり自分でプレゼンする。その能力の高さに驚いたという。従って経営企画部は存在しない。                      顧客からしてみれば、担当者が替わらないので信頼関係を築くことができる。欧州のプライベートバンクは100年先、3代先までを考えて付き合っている。その点、日本の金融機関は大手であればあるほど担当者の入れ替わりが激しく、安心して任せられないという。

「資産の運用はゆっくり長く持てば、必ず結果が出ます、日本人は短気」と日本人の投資姿勢を分析する篠田氏。そしてもっとグローバルに世界を見て欲しいと語る。“早く、たくさん”を望むから詐欺にひっかかってしまうと。

 

事業継承はビジネス面と資産管理を分けて

事業継承の相談も多いというが、事業継承は2つに分けて実施するのがベターと語る。一つはビジネスそのものの継承。創業社長よりも優れた2代目はいないので、次の経営者は能力で選ぶこと、プロの経営者を選ぶことが大切という。

 二つ目は資産の継承である。オーナーシップをどう継承するかが大切。日本は税金が高いので税務対策も大きな課題。信託、財団など次の世代にいかに資産を渡すか。欧州ではファミリーオフィスの形が多いが、日本人はその発想がないのが現実だ。そのあたりまで踏み込んでアドバイスするのもアリスタゴラの強みといえそうだ。

真のグローバルな発想を身につけるには、海外で外国人の上司の元での勤務経験があるかどうかが大切ときっぱり。この体験があればこそ、海外企業のカルチャーを肌で理解できるという。そういう意味では若い時にどんどん海外に出ていって経験してもらいたい。また子供時代からお金について勉強をすることが大切と強調する。

 

左がNY支店時代の篠田丈氏

 

 日本人のお金に対するリテラシーアップ

篠田氏が考える金融サービスは、実は今の日本にはありそうであまりない。必要と思っても何をどうすれば良いのか理解不足の人も多いのではと危惧する。子供の頃からお金について教育を実施、お金に対する意識を改革するとともに、もっとリテラシーを上げていくことが、世界で生きていくには大切と説く。

49歳で証券会社のフロント業務から離れ、セミリタイヤを望んだ篠田氏だが、思わぬ需要に目覚め、企業家として表舞台に登場して13年。語り口は穏やかだが、その眼差しには熱い闘志が見て取れる。日本人が詐欺被害に会わないためにも、もっとお金に対するリテラシーアップに貢献して欲しいものだ。

 

終活事業にも参入

3年前、アリスタゴラはお墓、葬儀などシニアライフサポート企業のニチリョクを買収、終活事業に参入した。終活は世界一の長寿国日本にとって、喫緊の課題といえる。こうした業界に参入するのもアリスタゴラにとっては新しい社会貢献事業ともいえよう。

投資コンサルタントがなぜ終活事業に?と驚くが、そのいきさつにはこうだ。

本来なら海外の投資家が投資するはずだったが、コロナ禍で取り止めとなった。その時、この業界の価値、将来性を徹底調査したところ、この先無くてはならない業界であることを確信。結果、アリスタゴラとして単独で投資することとなった。

この業界は思ったより低価格帯が蔓延、安かろう悪かろうのサービスが行き交っている。しかし安さだけでないサービスが求められていると睨む篠田氏。元々業界人ではないから、よそ者らしく新しいアプローチができると意欲を燃やす。

昨今、墓じまいの要望も多く、超高齢社会が伸展する日本にとっては、終活問題は避けては通れない。この世界でも顧客に寄り添い新しい価値、新しいサービスを提供していくことだろう。

 

証券マンとしてハードワークをこなし、さまざまな体験を積んできた篠田氏。今や日本でも欧州のプライベートバンクのように、顧客と徹底して向き合い、100年先までを考えたサービスが求められていると語る。今後は、きちんと100年体制を創る事、そしてこうした考え方をもっと広めたいと意欲を燃やす。そうした要望に応える会社として、アリスタゴラは唯一無二の存在となっていくだろう。篠田氏の熱い魂と辣腕に期待したい。

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