会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
ナレルグループという会社をご存じだろうか。未経験者を即戦力人材に育て、建設業界に技術者を派遣する建設ソリューション事業を手掛けるベンチャーだ。代表の小林良氏は「未経験者でもプロになれる」を掲げ、会社名をナレルグループと名付けた。そのユニークな発想と実行力で、日本の建設業界の未来を担わんと意気込む。 (三浦千佳子)
小林 良代表
建設業界の人手不足を解決したい
コロナ禍以降、都内の高層ビル建設ラッシュはすさまじい。虎ノ門ヒルズや麻布台ヒルズが完成、直近では品川、高輪ゲートウェイ駅界隈が建設ラッシュとなっている。
都市発展のシンボルともいえる高層建築だけでなく、人々の生活の拠点となるマンション建設など、日本国中、ビル建設が続いている。こうした建築物の施工には、大手ゼネコンが手がけているが、実際には施工管理者や技術者、建築労働者等、多くの人間か関わっている。要は人間がいないと立ち上がらないということだ。この建設現場にプロ集団を育てて派遣しているのが、小林代表率いるナレルグループだ。
大きなゼネコンには100人単位の技術者を派遣していると語る小林代表。日本の建築業界の未来を背負っているといっても過言ではない。
小林氏が建設業界に技術者を派遣するワールドコーポレーションを創業したのは、2008年だ。さらに拡大するべく、2019年にはホールディングス会社として舵を切る。
その社名に「未経験者でも、プロ人材になれる。」を掲げ、「ナレルグループ」と名付けた。そこには未経験者を必死でプロに育成しなければ、日本の建設業界は立ち行かないという強い危機感がある。そしてその使命を成し遂げるのは自分たちだという自負がある。
日本の建設業界の市場は50兆円から60兆円と巨大だ。日本のGDPの10%を占めるほどだ。しかし高齢化が進み人手不足が深刻化している。そこで小林氏は未経験者を即戦力の技術者として育成し、安定的に派遣することを思いついた。
そして社名にまで「プロになれる」を掲げ、本気で取り組んでいる。実際今後ナレルグループの存在感はますます高まっている。右肩上がりの業績を見ればわかる。
2023年10月期の売上収益は179 億円、営業利益24億円、2024年10月期売上収益216億円(前期比20%増)、営業利益31億円(同26%増)、2025年10月期売上収益予想256億円(同18.7%増)、営業利益予想33億円(同6.4%増)と、大幅増を見込む。技術者約3200人を抱え、日本の建設業を支える。まさに成長真っただ中の優良企業といえる。
未経験者をプロに育てる
ナレルグループの強さはどこにあるのか。一番は小林代表の先見の明といえよう。建設業界の人手不足を予測し、未経験者を採用、即戦力のプロに育成しようと思いついたのは2012年4月という。この斬新な発想と育成ノウハウが、今のナレルグループを盤石にしている。それだけではない、これからは全ての業種にIT人材が必須と睨み、2020年、ITに強いATJCを傘下に加えた。IT領域にもエンジニアを派遣するだけでなく、プロフェッショナル人材で、お客様のIT課題を解決しようというのだ。
さらに2021年には建設業界の人材プラットフォーム事業を展開するコントラフトを設立。建設業界で働く全ての人の就職支援に力を入れている。ナレルグループという持ち株会社には、ワールドコーポレーション、ATJC、コントラフトという3つの企業が連なる。
ナレルグループ入口で
誰でもプロになれると謳っても、高度な専門技術が求められる建設業界において、未経験者をプロ人材へ育てるのは簡単なことではない。しかし人手不足が喫緊の課題の日本においては、そうでもしなければ建設業界は立ちゆかない。まして高齢化が加速する今、「未経験者をプロに育てる」のは、時代の要請ともいえる。
トップセールスマンから起業
先見の明とチャレンジ精神で、建設業界を支える小林氏だが、ここまでくるには順風満帆とはいかなかった。高校中退という小林氏。10代で輸入時計の卸売業に飛び込むと、営業マンとしてノウハウを積んだ。すぐに頭角を現し、トップセールスとして名を上げる。その後数社に転職。2003年にはホテル会員権売買企業に転職した。ここは歩合制だったが、持ち前の営業スキルを発揮、30歳の頃は年収2,500万円を稼ぐトップセールスとなっていた。そんな小林氏がなぜ起業することになったのか。
そこには父親の存在が大きかった。玩具問屋の社長だった父親をカッコいいと尊敬、「いずれ自分も社長になりたい」と思っていたという。
何で起業するか迷っていた時、父親の「建設業界への人材派遣は面白いぞ」というアドバイスに、業界を調査。すると若手不足で派遣業に適した業界であることを確信。1年間の準備期間を経て、2008年11月、ワールドコーポレーション(現ナレルグループ)を創業した。36歳の時だった。
「コワイもの知らず、勢いでした」と当時を振り返る小林氏。そこにはトップセールスとして築いた自信があったろう。
どん底から這い上がる
2008年といえば9月にリーマンショックが勃発、世界不況へと陥る大変な年だった。最悪の船出となったが、2010年の終わりにはなんとか黒字化にこぎつけた。2011年の東日本大震災でゼネコンが東北に駆り出され、首都圏は人手不足が深刻化していた。そこで小林氏が思いついたのが、「未経験者をプロ技術者に育てる」という大胆な発想だった。2012年4月には実行に移し未経験者の採用に力を入れた。2013年には東京でのオリンピック開催が決定、建設ラッシュが予測された。ここからワールドコーポレーションの成長が期待されることとなる。
創業17年、これまで一番大変だったことは「創業時の資金繰り」と振り返る小林氏。リーマンショックで世界中が不況だったことを考えれば、やむをえないといえる。しかし持ち前のガッツで、どん底から這い上がった。その後規模を拡大、2019年にはナレルグループとして舵を切った。
上場を機にさらにパワーアップ
ナレルグループは2023年7月、東証グロースに上場した。人手不足が深刻化する建設業界に、良い技術者を安定供給する事業は、無くてはならない存在だ。その必要性はますます高まると睨んだからだ。
実際、上場してのメリットとは大きかった。「何より採用面でのメリットが大きい。公の会社になることで信頼性が高まり、良い人材が採用できるようになった」と。そして社員たちが自分の会社に誇りを持てるようになり、モチベーションアップにつながったことが嬉しいと、笑顔を向ける。
ナレルグループの強みは、小林氏のリーダーシップと実行力である。2020年以降はM&Aを推進、IT分野のソリューションビジネスにも進出、多角化を進めている。建設領域だけに特化するのではなく、分散させることでリスクヘッジにも注力している。
企業経営で一番大切にしていることは「人を大切にすること」と即答した。創業当初は野心もあったという小林氏。今は「オレがオレがというより、誰かの役に立つことが第一と考えるようになった」と。ナレルグループ4000名を率いるリーダーとして、ひた走る小林代表だが、教育体制は十分か、社員はいきいき働いているかなど、常に気を揉んでいると語る。
若手社員とともに 右端が小林代表
10年後業界トップを目指す
ロボットがどんなに発達しようと、建設業界の一番の要は、技術力の確かなプロ人材である。その安定供給を担うナレルグループの役割は大きい。
外国人の採用については、言語の壁があり難しいのが現状だ。最近は円安で日本企業の魅力が薄れ、採用すらできないという。だからこそ未経験の若者をプロに育てるという小林氏の発想は、時代の要請にピタリとはまる。
今後はDX化が課題と睨む小林代表、DX事業部を新設、アプリを使える人材育成に余念がない。AI活用が必須の現在、建築の技術とDX化を併せ技で進めなければ、時代に対応できないと睨む。
今年53歳という小林代表、団塊ジュニア世代として打たれ強い。座右の銘は、稲盛和夫の名言「あらゆる事象は、心の反映である」と語る。全ては自分の心の持ちようと心に刻み、時代の荒波に立ち向かう。
「今、業界4位のナレルグループを圧倒的1位に押し上げたい。そして10年後は必ずトップを勝ち取る」と意気込む。若い頃、トップセールスマンとして鳴らした小林代表、目標が高いほど燃えるタイプだ。目指す頂きはまだ遠い。しかし持ち前のバイタリティとチャレンジ精神で突破するであろう。日本の建築業界の未来を担うナレルグループから目が離せない。