会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
東京・深川木場に2021年12月「Boulangerie S.Igarashi(エス・イガラシ)」がオープンして4年。美味しいパン屋ができたと地元で評判だ。2024年には押上に2号店「es feuilletage(エスタージュ)」をオープン、人気沸騰中だ。オーナーシェフの五十嵐聡太氏は、自慢のパンづくりはもとより、働き方改革推進など、新時代のパン職人として知られている。
(リポート三浦千佳子)

五十嵐聡太シェフ
■行列店エス・イガラシ
下町の香りが漂う東京の深川木場。地下鉄木場駅から徒歩7分ほどの住宅地にあるエス・イガラシは、行列ができるパン屋さんとして評判だ。開店10時前にはお目当てのパンを求め、パン好きが並ぶ。店内にはこだわりのパン40種がズラリと並ぶ。自慢のクロワッサンはもとより、バゲットやカンパーニュなどの食事パン類、サンドイッチ類、季節の焼き込み調理パン、あんバターサンドなど甘い系も充実。これらが次々と売れていく。

自慢の40アイテムが揃う

人気のあんバターサンド
「ピスタチオのエスカルゴ」は美しく、ザクザクの食感の生地と、巻き込んだピスタチオフィリングの上品な甘さ、刻んだピスタチオの味わいに虜になる。どれも五十嵐シェフの技術の高さがうかがい知れる。

ピスタチオのエスカルゴ
■パリッとしたクロワッサン
メゾンカイザー出身の五十嵐シェフは、クロワッサンが得意だ。誰もが五十嵐流の外側がパリッとしたクロワッサンに夢中になる。生地量70gと大ぶりのクロワッサンは、国産小麦粉をブレンド、発酵バターは、冬は重めに夏はあっさり味にと、季節によって使い分ける。パリッとした食感の秘密は、折り込んだ生地に、さらにもう1枚生地を重ねているからだ。面倒だが特長ある商品づくりには手間を惜しまない。表面には卵液ではなく、シロップを塗ることでパリッと感を維持している。何事にも研究熱心だ。

パリッとしたクロワッサン
■季節感を大切に
季節感を大切にする五十嵐シェフ。「春のいちご」の美しい赤色には目を奪われる。苺果汁を入れた赤色の生地に苺とミルクチョコとレーズンがぎっしり。甘酸っぱさとチョコの甘さが絶妙だ。「春の訪れ」は、断面が可愛らしく見ているだけでワクワクする。金柑香るもっちりした生地に、ピスタチオとカレンズ、蜜漬けの金柑がごろごろ入っている。まさに春を感じさせるアイテムだ。

左「春のいちご」 右「春の訪れ」
サンドイッチ好きという五十嵐シェフ、サンドイッチにも力を入れている。一番人気は、「熟成ハムと発酵バター」だ。「北の香り」に山口県の鹿野ファームの熟成ハムを使い、発酵バターを挟んでいる。この絶妙な組み合わせに感動したファンが店に通う。

熟成ハムと発酵バター
■押上に2号店をオープン
1号店だけでは物足りないと五十嵐シェフ、2024年7月には、押上のスカイツリー近くに2号店「es feuilletageエスタージュ」をオープンした。こちらは観光地ということもあり、「旅先で食べられるパン屋さん」をテーマに、折込み生地を中心とした商品を揃えている。スカイツリーの真下ということもあり、観光客も多い。
ここでの人気は、進化系クロワッサン「パンスイス」だ。中でも赤色が鮮やかな「フランボワーズ」が人気だ。また真っ黒の色合いの「カカオ」も人気という。更にここには折込み生地を使った「エスカルゴ」も4種類を揃えている。

観光客も多いエスタージュ

パンスイスフランボワーズ
またフォカッチャ生地を使った惣菜パンなど40種類を揃え、観光客はもとより、地元の人々にも喜ばれている。入口脇にはベンチを置き、ドリンク類も提供、観光地対応にも余念がない。
■メゾンカイザーでパンの全てを学ぶ
20歳の頃にパン職人になろうと決意、ドンクでパンづくりの基礎を学ぶ。その後メゾンカイザーに転職、パン職人としての技術向上に励んだ。新オープンの大阪アベノハルカス店を任され、ピーク時は1日200万円を売り上げるトップ店に押し上げた。
メゾンカイザーは経営の自由度が高く、効率化や経営的なことも学んだ。パンとの向き合い方やパンの愛し方も学んだ。その時の経験が今の五十嵐シェフの基本となっている。
その後福岡で独立したが「東京で勝負したい」との想いが強く、2年で終わりにし、東京進出を果たすこととなる。
そして2021年12月、晴れて東京・木場にエス・イガラシをオープンした。パンづくりのモットーは3つ。①「素材へのこだわり」 ②「四季を感じるブーランジュリー」 ③「組み合わせを考える」。この3つをしっかりと実践。中でも特に素材へのこだわりは半端ない。
■生産性を上げ短時間で勝負
エス・イガラシは10時にオープン15時には閉店する。メゾンカイザー時代から、無駄な作業は省き生産性を上げ、働き方改革を実施してきた。今、人手不足が課題だが、エス・イガラシでは求人に困ったことがないという。製造担当でも朝は7時からでOK。店は15時で閉店し残業もないから働きやすい。
五十嵐シェフ自身も17時には帰宅し、料理をしたり子供の世話をしたりと家庭的だ。パン屋というと、朝早くから夜遅くまで、というイメージが強いが、生産性を上げ、それを払拭している。新しい発想のパン職人の登場にはベーカリー業界の未来を感じさせる。
バゲットはプースラント法(成形冷蔵発酵法) で焼いている。小麦粉の旨味が引き出され、しかも朝一番からすぐ焼けるので大変便利と語る。風味豊かで外はサックリ、中はもっちりの食感に仕上げている。

スタッフ育成も熱心
「自分一人でやっていたら将来はない」と五十嵐シェフ。「今は毎日のパンづくりの実作業からは、敢えて外れるようにしている」という。スタッフに任せ、育成に力を注ぐ。厨房をのぞくと製造スタッフがイキイキと仕事をこなしていた。
■トレンドに敏感に
「商売にするためには、トレンドを無視してその先はない」とズバリ。「自らの世界観を表現、トレンドを創り出していかなければ今後は生き残れない」と。あの芸術的なパンスイスはさまざまなメディアに登場、五十嵐シェフの評判を確固たるものにしている。

エルグルメ2023年5月号「パン最前線特集」で表紙に掲載された
東京で勝負するに当たり、全国のベーカリーや人気の店を1000店以上食べ歩いたという五十嵐シェフ。好奇心旺盛で、美味しいと思った食材は一袋からでも取り寄せ、使ってみる。展示会を見て回るのが好きで、新しい技術や特長ある食材には興味津々だ。商品開発のアイデアの基本は、自分が食べたいものを優先しているという。
東京進出を果たして4年。エス・イガラシもエスタージュも頻繁にメディアに登場、人気沸騰中だ。そこにはトレンドに敏感で、自らトレンドを創り出す独創性とチャレンジ精神がある。新時代のブーランジェとして、時代をリードしていく五十嵐シェフの今後が楽しみだ。

夢を語る五十嵐シェフ